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離婚を考えるとき、養育費というのは、とても大きな問題となります。
また、子がいる場合の離婚では養育費は必ず発生します。
では、養育費とは、どのような性質のもので、どのように決定するのでしょうか。
親である以上、子を養育する義務があります。
また、離婚したからといって親子の関係はなくなりません。
養育費を支払うことは、親としての義務なのです。
では、養育費の決定方法とはどのようなものになるのでしょうか。
離婚したときに支払う費用には、財産分与や慰謝料、養育費などがあります。
ですが、この中でも養育費は、他の2つと比べてその性質がまったく違うものになります。
では、養育費とはどのようなものなのか、そこを解説します。
離婚したときに相手に請求できるお金には大きく分けて3つあり、財産分与・慰謝料・子どもの養育費となります。
財産分与とは、夫婦が所有する財産について離婚時に分けるものとなります。
夫婦が共同で取得してきた財産についてそれぞれの持ち分を決めるのが財産分与です。
ですので、財産分与が発生しない離婚というのもありえます。
次に、慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償となります。
どちらにも精神的苦痛がなかったならば、慰謝料は発生しませんし、また必ず夫から妻に支払われると決まっているようなものではありません。
例えば何かしら不貞行為があったなど、離婚原因を作った方から他方に支払われる賠償金です。
慰謝料が発生しない離婚というのもたくさんあります。
そして、子どもの養育費とは、子どもが成人に達するまでに必要な費用を負担するというものになります。
ですので、養育費とは、子どもに対して支払われるべきものとなります。
これに対し、財産分与や慰謝料の2つは、夫婦のどちらかがどちらかに支払うという性質のものですので、意味合いがまったく違うものになります。
親は子を養育する義務がありますので、子がいる場合、必ず養育費は支払われるべきものとなります。
離婚した場合、夫婦の関係は赤の他人となります。
ですが、子どもとの関係では、親子関係がなくなるわけではありません。
親と子どもは血がつながっていますので、別居したからといって、これをなしにすることはできないのです。
また、親権者や監護者でなかったとしても、法律上の親子関係はあり、親は子どもを養育する義務があります。
子どもを養育する義務を扶養義務といいます。
この扶養義務として生活に必要な費用の経済的負担を行うのが養育費なのです。
また、養育費は親の生活水準と子どもの生活水準を同程度にすることを実現すべきものとされています。
養育費は、子どもに対して支払われる金銭です。
ですので、子どもを引き取って養育する方に対して、養育しない方が支払うということになります。
離婚した父母は、その資力やその他の事情を考慮して毎月支払う養育費の金額がいくらになるのかを決めていきます。
ですが、離婚したからといって、子どもの生活水準が著しく下がってしまい、親と子どもの生活水準が異なるということは子どもの福祉の観点からみても許されることではありませんので、養育費の金額を決める際は、このあたりを考慮して決定する必要があります。
親の子どもに対する義務として、子どもには親と同等の生活を保証する義務があります。
それはどの程度までを同等とするのでしょうか。
一つのケースについて、みていきましょう。
親の養育義務は、子どもに対して、親と同水準の生活を保証する義務となります。
この義務を生活保持義務といいます。
生活保持義務である養育費の金額は、未成熟の子どもが親と同水準の生活を維持できる金額でなければなりません。
民法では、親族間では、互いに扶養をする義務があると定めています。
もちろん、親と子どもも親族ですからこの義務があるのですが、たとえば、未成熟な子どもや未成年の子どもの場合と、成人した子どもではこの扶養の意味合いも変わってきます。
成人した子どもは、大人ですが、法律上の親子関係はあります。
もちろん扶養の義務もありますが、生活水準を同等とすることまでが求められているわけではありません。
大人になった子どもや、あるいは大人になった兄弟姉妹などは、互いに扶養する義務はありますが、これはあくまでも自分の生活に余裕のある範囲内で扶養の義務が求められているものです。
これを生活扶助義務といいます。
これに対し、生活保持義務とは、親と子どもは同水準の生活を維持できることが求められていて、自分の生活水準を切り下げてでも、扶養しなければならない義務になるのです。
親と同水準の生活とは、まさに文字通り同じレベルの生活ができることを言うもので、自分の余裕の範囲内でお金を出すとか、月いくらなら余裕をもって払えるとかいうような形で決まるべきものではありません。
子どもと生活水準を同等とするということが生活保持義務であり、これは親自身の生活水準を今よりも下げたとしても達成すべきものとなります。
まさに「一椀の飯も分かち合うというのが生活保持義務である」という高裁が出した判断があり、そのケースをみてみましょう。
3人の子どもをもつ母親が父親に対し、1人につき3万円の養育費を求め、家庭裁判所に申し立てを行いました。
ところが、父親は多額の借金があり、なおかつ失業中で、借金の返済も自分の親に頼っている状態で、経済的な余裕はなく、養育費を支払えないと陳述しました。
家庭裁判所の審判では、父親に経済的な余力がないと認め、母親の申し立てを却下しました。
そこで母親が高裁に抗告したところ、高裁は、審判を取り消し、審判のやり直しを命じました。
高裁の判断では、生活保持義務とは、一椀の飯も分かち合うというものであり、未成熟な子どもに対する扶養義務は、親に存在する余力の範囲内で行えば足りるような生活扶助義務ではない、としています。(大阪高裁・平成6年4月19日決定)
このように、たとえ多額の借金があったとしても、養育費が支払えないという判断にはただちにつながりません。
父親は多額の借金があったとはいえ、借金の返済を自分の親に頼れる状況にあり、またローンがあるとはいえ、家を所有していたわけですし、生活も維持していました。
そうした状況を鑑みれば、経済的余裕がなく養育費を支払えないとは言えないとされたのです。
また、養育費とは今現在に支払うだけのものではなく、子どもが成人に達するまで支払うべきものとなります。
たとえ、借金があり、無職であったとしても、それは現在のことであり、将来にわたってそうであるかどうかはわかりません。
生活保持義務とは、将来も見越したうえで、総合的に判断されるべきものなのです。
養育費の支払いは、一般的には子どもが成人したときまでとなります。
ですが、これはケースバイケースで、この前後に定めることもよくあります。
たとえば、大学に行くことを想定している場合は、4年制大学を卒業するときまで、とするケースもありますし、あるいは18歳までとするケースもあります。
また、養育費は長い年月支払うものになりますので、事情が変わることもあります。
もらっている養育費が社会通念に合致しなくなったときは、増額や減額など、養育費の変更も可能とされています。
では、養育費はどのようにして決定するのでしょうか。
決定にはいくつかの順番がありますので、そこを解説します。
まずは、当事者同士で話し合いをすることになります。
お互いの給料や財産など、住む家をどうするか、子どもの養育にかかる費用など、将来を見越したうえで、総合的に判断することになります。
また、住宅ローンの問題や家賃の問題、あるいは子どもの授業料なども考慮に入れる必要があります。
生活保持義務として、親は子どもと同水準の生活を維持できる必要があり、そこも検討して決めなければなりません。
養育費を決める場合、まずは話し合いで決めるのですが、なかなかうまく決まらない場合があります。
そんなとき、参考にすべきなのは、家庭裁判所でとられている養育費の決め方になります。
養育費の決め方は次の4つの算定方法があります。
①の実費方式は、それぞれの実際の収入や生活費などを考慮して、そのかねあいで決める方法になります。
②の生活保護基準方式は、生活保護法にもとづいて厚生労働大臣が定める生活基準をもとにして、判断するというものになります。
③の労研方式は、財団法人労働科学研究所が最低生活費の算定方法として生み出した総合消費単位を基準とするやり方になります
④の養育費・婚姻費用算定表は、平成15年4月に現役裁判官を中心として「東京・大阪養育費等研究会」が発表した「養育費・婚姻費用の算定方式と算定表」を参考にするものです。
養育費を話し合いで決める場合は、これらを参考にしながら、お互いが納得いく金額を決定していきます。
養育費の金額を話し合いで決めようとしたけれど、話し合いがまとまらない場合があります。
その場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
離婚調停の場合、あくまでも話し合いがベースとなりますから、お互いが合意して調停は成立します。
複数回調停を重ねても合意が成立しない場合があります。
この場合は、合意が成立する見込みがないとして調停は不調として終了します。
ですが、養育費請求の調停の場合は、合意に達しないときは、調停の申し立てのときに審判の申し立てがあったとみなされて、審判が下されます。
また、離婚調停で離婚の合意だけが成立している場合で、親権者や養育費の金額などが合意できずに調停が成立しない場合は、家庭裁判所が調停に代わる審判という形で、親権者や養育費を決めることもあります。
養育費の話し合いが決まらず、養育費の請求の調停をするのですが、そもそも離婚には養育費だけでなく、親権者の問題や離婚する、しないという部分で揉めることがあります。
当事者で協議離婚が成立できない場合、離婚調停を申し立てることになります。
離婚の場合、調停前置主義となっていて、訴訟の前に調停をする必要があるのです。
そしてその調停において、親権者や養育費について合意する場合もあります。
また、調停が不調に終わった場合、離婚の訴訟がなされることもあります。
この訴訟の判決において養育費の支払いが命じられることもあります。
この場合は、この判決に従って養育費を支払っていくことになります。
養育費は親の義務であり、子どもがいる離婚の場合、扶養義務として、親は必ず支払わなければならないものとなります。
財産分与や慰謝料は、親同士で支払うものとなりますが、慰謝料は、この2つとは異なり、親から子どもに対して支払われるべきものになります。
親は、子どもの経済的負担を行う必要があり、養育費は養育する方に対して、養育しない方が支払う金銭となります。
また親は、子どもに対して親の生活水準と同等の生活をする保証があり、これを生活保持義務といいます。
生活保持義務とは、自分の生活水準を切り下げてでも扶養しなければならない義務で、一椀の飯も分かち合うというものになります。
養育費は、まずは話し合いで決めますが、そのときに参考にするのが4つの算定方法で、実費方式・生活保護基準方式・労研方式・養育費・婚姻費用算定表を参考にする方式があります。
養育費は、話し合いでどうしても決まらないときは調停を申し立てることになります。
また、離婚調停をした場合は、その調停によって養育費の金額が決まることもありますし、離婚の訴訟によって、養育費の金額が決められ支払いが命じられることもあります。