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最近では、親権者・監護権者を争う裁判も増えてきています。
離婚にいたる夫婦というのはお互いを嫌っている場合がほとんどなため、「あいつには子どもを任せられない!」とお互いに思っているケースが多いのです。
逆に、お互い子どもを引き取りたくないという場合もあります。
経済的な問題など事情はさまざまですが、裁判で子どもを押し付けあうこともあります。
裁判所は親権・監護権者の決定をどのように判断しているのでしょうか。
実際の判例をご紹介します。
家庭裁判所は、離婚にともなう親権・監護権者の判断について、子どもの福祉を第一に判断します。
経済状況や子育てに対する熱意など、子どもの養育環境としてより適切な方を親権・監護権者に定めます。
15歳の長女と12歳の長男の親権を父母が争った事例では、長女の親権者は父親が、長男の親権者は母親がそれぞれ持つという判決がなされました。
両親は離婚については争いがなく、お互いに親権者を自分にするよう求めて裁判となりました。
裁判前に両親は別居しており、2人の子どもは5年間父親と暮らしてきました。
父親の5年間の養育実績をもって、第1審は今の環境を変えることは子どもの福祉に反すると判断し、親権者を父親としました。
しかし控訴審では子どもの養育環境についてさらに詳細な審理が行われ、父親が長男に対ししつけの範囲を超えた暴力を加えていた事実が認められました。
この点を重視し、暴力の対象になりやすい長男の親権者は母親のほうが適切と控訴審は判断しました。
そして長女については本人が母親との同居を望んでいないことや高校進学を控えた長女の環境が変わることは好ましくないことから、長女の親権者は父親という判決を下しました。
基本的に、裁判所は兄弟の親権者を分けることはあまりありません。
兄弟は差異なく、一緒に育つ方が子どもの福祉にかなうと考えるからです。
しかし、事情がある場合には、この判例のように兄弟の親権者を父母それぞれとする判断をすることもあります。
現在も、幼い子どもは母親のもとで育てられる方がよいという考え方が主流です。
特に幼い女の子の親権者は同性でもある母親に指定されやすい傾向があり、父親が親権者となる場合は極めて珍しいといわれています。
4歳の幼い女の子の親権者が父親に指定された、珍しい判決をご紹介します。
母親は不貞行為を父親にとがめられことをきっかけに、4歳の女の子をつれて実家に戻り、別居が始まりました。
父母は共働きで、父親も母親と同程度の子育てを行っていました。
父母は同程度の子育て実績と熱意を有しており、それぞれが女の子の親権を主張して裁判となりました。
裁判所は、母親が自らの不貞行為によって婚姻生活を破綻させた上、子どもを勝手に実家に連れ帰っている点を重視し、父親が親権者としてふさわしいと判断しました。
母親は控訴しましたが棄却され、父親が親権者とする判決が確定しています。
幼い女の子の親権者は母親になるのがほとんどです。
しかし今回の場合は父母の養育環境に差異がなかったため、婚姻生活の破綻原因を作ったことなどが考慮されたと考えられます。
最近は共働き世帯が増え、母親と同程度に育児に参加する父親も増えてきています。
従来の「幼い子どもは母親といたほうがいい」「母親のほうが子育てに向いている」といった考え方は今後少なくなり、今回のように父親が親権者となる事例も増えてくるかもしれません。
夫婦は離婚しても、子どもにとって親であることはかわりません。
面会交流といって、離婚後も子どもと会う機会を作ることを離婚の条件とする場合が多いです。
通常、面会交流は頻度や時間なども合わせて離婚協議書に記載されます。
この面会交流を一方的に行わなくなったことを理由に、家庭裁判所が親権者を変更する判断を下した例があります。
夫婦には長男(離婚時は未就学、裁判時は小学生)がおり、別居前から父親と長男の関係は良好で、父母ともに親権を主張し離婚協議を行っていました。
しかし協議中に母親が長男を連れて一方的に遠方に転居、最終的に月1回の面会交流を条件に母親を親権者とする離婚が成立しました。
しかし、離婚後の面会交流で長男が父親を拒絶するようになり、父親は「母親が拒絶するよう仕向けている」として家庭裁判所に親権変更の申し立てを行いました。
家庭裁判所のプレイルームで2回面会交流が行われましたが、2回目は長男が拒否。
裁判所は、長男の拒絶の原因は1回目の後に母親から「ママ見てたよ」と言われたことにあると認定し、母親に対する忠誠心を示すために父親に対する拒否感を強めたと推認するのが合理的と指摘しました。
その上で、裁判所は親権者を父親、監護権者を母親とする判決を下しました。
親権と監護権を分けることで双方が長男の養育のために協力する枠組みを設定することが有益であり、長男を葛藤状態から解放する必要があると判断したのです。
親権者が誰になるのかというのは、子どもにとって重大な事項です。
従来から、家庭裁判所は15歳以上の子どもについては、子どもの意思も判断材料としていました。
しかし、15歳未満の子どもでも、しっかりとした判断能力と意思をもっています。
11歳の子どもの意見を重視し、親権者を父親として判決もあります。
夫婦には11歳の長男と7歳の長女がいました。
子どもの長期休暇中に母親が子ども2人を連れて家出し離婚を宣言、別居生活が始まりました。
別居当初から父親と子どもたちは面会を続けていましたが、長男が父親のもとで暮らしたいと言い始めました。
長男は父親のもとから中学校に通学したい、妹である長女とは面会交流で会えるからよいという意見で、父親は長男の親権をもとめて裁判となりました。
裁判所は長男の意向を慎重に確認し、学校などにも調査を行いました。
その結果、長男の意思を重視し、長男の親権者を父親に指定する判断を下しました。
基本的には、兄妹は分離されるべきではありません。
しかし、今回は長男の意思が積極的であることや妹との面会交流により兄妹分離のデメリットは回避できることから、兄妹の親権者を父母に分ける判断がなされました。
面会交流の頻度はだいたい月1~2回程度です。
離婚したわけですしそれぞれの生活もありますから、そんな頻繁には難しいです。
しかし中には、離婚後も子どもにはまめに会いたい、会わせてあげたいと主張する親もあり、家庭裁判所もその気持ちを重視する判断を下すことがあります。
夫婦には当時2歳4カ月の長女がいましたが、母親が娘を連れて家出し、離婚と親権を求めた裁判を起こしました。
父親も親権を主張し、離婚後の養育条件などが争点となりました。
裁判ではそれぞれが親権者となった場合の面会交流の頻度が主張され、母親は「月1~2回」、父親は「年間100回程度」を提示しました。
年間100回といえば、3日に一度です。
離婚した相手とそんなに会いたいわけがなく、また仕事や家事をしながらこの頻度は困難です。
しかし第一審の裁判官は、父親の「子どもには100回でも母親に会わせてあげたい」という気持ちを評価し、「長女が両親の愛情を受けて健全に成長するには夫を親権者にすべき」と判断しました。
これは「フレンドリーペアレントルール(より相手に寛容な親を優先する基準)」という欧米で主流の考え方に基づいた判断と考えられます。
現在の日本は「継続性の原則」という考え方が主に採用されており、離婚後の未成年の子どもの生育環境を維持するために同居中の親が優先されます。
しかし第一審の裁判官は、より寛容な条件を示した父親を親権者と指定しました。
たくさん両親に会える方が、子どもの福祉にかなうと考えたのです。
母親は控訴し、控訴審では面会交流の頻度だけではなく子の養育状況などを総合的に考慮して親権者を定めるべきとして母親を親権者とする判決を下し、確定しました。
第一審の判決は控訴審で覆されはしましたが、別居で子どもに会いにくい親の気持ちを重視した判決として注目されました。
以前は母親が親権者となる場合が多かった離婚裁判ですが、最近は父親が親権者となる例も増えています。
子どもの福祉にかなうのなら兄弟が分離される場合もあります。
家庭裁判所は事例ごとに子どもの福祉を第一に判断しており、今後も子育て環境の変化に応じて、さまざまな判例が考えられます。