未成年の子どもがいる夫婦が離婚した場合、通常は夫婦のどちらかが子どもを引き取ることになります。
しかし、さまざまな事情から、どちらも子どもを引き取りたがらないケースもあります。
この場合、子どもはどうなるのでしょうか?
離婚する夫婦がどちらも子どもを引き取りたがらない場合について、解説します。
夫婦であることを辞めることはできても、親であることを辞めることはできません。
離婚時に子どもが未成年の場合、父母のどちらかが親権者あるいは監護権者となって子どもを引き取ることになります。
多くの親は子どもを愛していますから、たいていは「我こそは親権者になりたい」「子どもと一緒に暮らしたい」と子どもを奪い合うケースが多いです。
その一方で、父母のどちらもが子どもを引き取りたがらず、押し付け合いになることもあります。
子どもの引き取りを拒む事情は人それぞれですが、次のような事情が多いです。
ほかにも、配偶者のことが嫌いになったからその子どもも嫌いという場合や長期の海外転勤が決まっているなど、ケースごとに理由はいろいろです。
子どもの引き取りを拒む理由のなかには、同情できるものもあります。
しかしどのような事情であれ、当然には子どもを引き取らなくていい理由にはなりません。
未成年の子どもの親である以上、子どもの福祉のために監護養育する義務が法に定められているのです。
親の勝手な気持ちや事情で、親権を放棄することはできません。
夫婦のどちらもが子どもの引き取りを嫌がり、話し合いでも結論が出なかった場合には、家庭裁判所が親権者を決めることになります。
まずは調停を行い、調停委員のアドバイスを受けながら親権者について話し合います。
それでもどちらが引き取るか決まらなかった場合には裁判になり、判決によって親権者が決まります。
裁判所はさまざまな点を比較考量して親権者を定めます。
経済力や子どもへの愛情、子育ての能力や子どもの意思などを勘案し、子どもの福祉を第一とした判断を行います。
一時は引き取りを拒んだとしても、その後は適切な子育てを行う人もいます。
しかし一般的には、一度子どもの引き取りを拒んだ親に適切な監護養育は期待できません。
親であることを辞めることはできないとは言ってもあくまでも法律上の話で、現実は育児放棄や虐待なども起こりえます。
子どもの福祉のために、親権者辞任の制度が設けられています。
民法第837条1項は、「やむを得ない事由」があるときには親権者を辞任することができると定めています。
親権を辞任するためには、家庭裁判所に親権辞任の許可審判を申し立てて許可を得なくてはいけません。
抱えている事情が「やむを得ない事由」にあたるかどうかは、家庭裁判所が判断します。
やむを得ない事由とは、ケースによってさまざまです。
親権の辞任は、養育される側の子どもにとってはとても重大なことです。
したがって家庭裁判所はそれぞれの事情を慎重に検討し、15歳以上の子どもについては子どもの陳述も聞いて判断します。
家庭裁判所の許可を得て親権者が辞任すると、通常はもう一方の親が親権者となります。
しかしもう一方の親も親権を辞任するかもしれませんし、子どもの福祉の見地から親権者としてふさわしくない場合もあります。
そのような場合には、家庭裁判所が親権者の代わりとなる「未成年後見人」を選任します。
未成年後見人には、祖父母など子どもの親族が任命される場合が多いですが、弁護士や児童養護施設などの利害関係のない第三者が選ばれる場合もあります。
親は家庭裁判所の許可によって初めて親権を辞任することができますが、それだけで親権離脱の効力が発生するかどうかには学説上の争いがあります。
実務上は、市区町村役場に親権辞任届を提出することで世間的な効力が生ずるという運用がなされています。
なお、一度親権を辞任しても、やむを得ない事由がなくなればまた親権を回復することが可能です。
親権回復は、親権辞任の場合と同様に、家庭裁判所に審判を申し立てて許可を得て行います。
この場合も、市区町村役場に親権回復届の提出が必要です。
親権者変更の制度も法定されています。
親権者を変更したい場合には、親権者変更の申し立てを家庭裁判所に起こします。
離婚時の親権者は夫婦の話し合いで決めることができますが、一度決めた親権者は話し合いでは変更できません。
必ず家庭裁判所を通す必要があります。
親権者変更の申し立ては、親権者側からも親権者でない側からも申し立てることができます。
子どもの親族も申し立てが可能です。
申し立てをうけた家庭裁判所は親権者変更の審判を行い、子の福祉を考えて、もう一方に親権を変更するかを決めます(図1)。
親権者の変更について、家庭裁判所はとても慎重に判断します。
そう簡単に変更は認められません。
家庭裁判所の調査官は、子どもの養育環境や子どもの気持ちなどについての現状を調査します。
「どちらが子どもにとって適切な親権者か」ということだけでなく、「現在の親権者による養育環境は悪化しているのか」「このまま親権者を維持するべきではないと思われるほど悪化しているのか」という点などを詳しく検討します。
親権者変更が認められる理由としては、たとえば以下のようなものがあります。
現在の親権者についてだけでなく、新しく親権者になろうとしている人についても慎重に検討されます。
たとえば養育環境や経済状況、子どもに対する愛情や心身の健康状態などが現在の親権者よりも親権者として適切であると証明しなければ、親権者変更は認められません。
親権者の変更は子どもにとって大きな変化になるため、裁判所は子どもの事情も判断材料とします。
子どもがまだ幼い場合には母親のもとで育てられるべきと考えられているため、子どもの年齢が低いほど、父親への親権変更は認められにくい傾向にあります。
また親権者が変わることで、子どもの環境は強制的に変更させられます。
転校を余儀なくされ、友達とも引き離されることになるかもしれません。
判決においては、現在の子どもの環境を維持すべきかどうかも考慮されます。
逆に今いじめにあっているなど環境を変えたほうが子どもの福祉にかなう事情がある場合には、親権者変更が認められやすくなります。
意に反して親権者となり子どもを押し付けられた形となった親の場合、子どもにとって適切な養育はあまり期待できません。
育児放棄や祖父母に子どもを預けたきりにしているなど不適切な養育の事実があった場合には、親権の消極的濫用になるとされています。
民法は、このような場合には親権を喪失されることができると定めています(民法第834条)。
親権喪失も家庭裁判所の決定を経る必要があり、子どもの親族または検察官、児童相談所の所長が親権喪失の申し立てを行うことができます。
親権喪失が決定するまでの間、親権者の親権行使を停止し、代わりに親権代行者が選任されます。
親権喪失の審判が下ると、親権者の親権はなくなり、子どもの親権者はいなくなります。
その場合、子どもの親族や児童相談所の所長に未成年後見人の選任を申し立てることができます。
親権喪失が認められるためには厳しい条件があり、時間もかかります。
そのため、親権停止の制度も定められています。
親権停止の制度では、2年を超えない期間、親権者の親権を停止させることができます。
相次ぐ児童虐待事案に対応するために定められたもので、2年間親子を引き離すことで子どもの安全が確保できると同時に、親権者も家庭環境や自身の心身を安定させることができます。
親権停止は、お互いが環境を整える期間を半ば強制的に設け、親子の再統合を図る制度です。
離婚時に親権者を決める際には、基本的に父母の話し合いで決めることになります。
しかし、一度決めた親権者を辞任または変更する場合には、必ず家庭裁判所を経なくてはいけません。
これは、一度決まった親権者が変わるのは子どもにとって重大な変化になるためです。
父母の話し合いだけで親権者を辞任または変更できることにすると、自分たちの勝手な都合でコロコロと親権者を変更する父母がいるかもしれません。
子どもはその度に引越しや転校を強いられることになり、父母が自身を押し付けあっているような悲しい気持ちを味わうことにもなります。
このような不安定な環境は子どもの福祉に反します。
そこで民法は、親権者の辞任または変更は家庭裁判所に申し立てなければできないと定めました。
こうすることで簡単には親権者を変えることができなくなり、子どもの養育環境を守っているのです。
未成年の子どもがいる夫婦が離婚し、どちらも子どもを引き取りたがらない場合、最終的には家庭裁判所が親権者を定めます。
裁判所は子どもの福祉を第一に考え、さまざまな事情を考慮して親権者を決めます。
親権者はやむを得ない事由などがある場合には、親権者の辞任または変更を申し立てることができます。
親権者の辞任または変更の申し立ては家庭裁判所で行われ、慎重な審理を経て判断されます。