そこで今回は、離婚にともなう金額の取り決めの相場について、裁判所の統計を手がかりに見ていきます。
離婚にともなう慰謝料と財産分与の金額については、司法統計が参考になります。
司法統計とは、地方裁判所などの裁判所が取り扱う事件について統計で表したものです。
日本の裁判所における司法統計については、最高裁判所事務総局が集計を担当しています。
集計した結果については、司法統計年報や司法統計月報として刊行しているほか、裁判所のホームページなどにも掲載されています。
司法統計年報によれば、家庭裁判所において離婚が成立した全体の事件数のうち、慰謝料及び財産分与についての取り決めがある事件の件数は、例年について全体の約半分となっています。
次に、慰謝料及び財産分与についての取り決めがある事件について、慰謝料と財産分与の合計額の平均金額を見てみます。
例として、平成3年の平均金額は約435万円でした。
その後は毎年450万円台に近づいていきますが、バブル崩壊の影響によるものか、平成8年は約404万円、平成9年は382万円、平成10年は380万円と、徐々に金額は下がっています。
以降は、慰謝料を除く財産分与の金額のみについて、階層別の集計数が公表されるように制度が変更されたため、合計額や平均額は不明になりました。
関連するデータを見ていくと、家庭裁判所で成立した離婚件数全体のうち、財産分与(慰謝料を含まない)についての取決めのある事件の件数は、全体の30%パーセント前後となっています。
また、財産分与についての取決めのある離婚事件においては、財産分与の金額が100万円〜600万円のケースが事件全体の40%近くを占めるという結果になっています。
まとめると、財産分与の取り決めがある事件は全体の30%程度しかなく、そのうちの40%近くは金額が多くても600万円ということになります。
裁判所の司法統計を見ると、日本における多くの離婚においては、財産分与などの金銭についての取り決めがあるケースは決して多くなく、また取り決めがある場合の金額も多額ではない、ということが把握できます。
また、離婚にともなう慰謝料や財産分与の金額は、地域によって差があるのも特徴の一つです。
東京などの大都市では金額が高くなる傾向があり、地方においては低くなる傾向があります。
次に、婚姻期間と慰謝料及び財産分与の金額の関係を見ていきます。
例として、全国の家庭裁判所の調停や審判によって成立した離婚件数は、平成10年は2万1147件でしたが、慰謝料や財産分与についての取決めがなされたのは全体の約57%の1万2032件でした。
統計による金額は、夫婦の収入、資産、離婚原因などのさまざまな要素がありますが、結婚年数が長いほど金額が高くなる傾向ははっきりしています。
統計においては例年、婚姻期間が9年以上になると全体の平均額を上回ることが多くなっています。
なお、平成12年以降については、慰謝料を含む支払額については統計として公表されなくなったため、財産分与のみを手がかりとすることになります。
その場合でも、 婚姻していた期間が長いほど、離婚にともなって支払われる金額は増加する傾向にあります。
参考例として、平成26年度における全家庭裁判所の財産分与の支払額を掲載します。
婚姻期間 総件数 取り決めあり総件数 100万円以下 200万円以下 400万円以下 600万円以下 1000万円以下 2000万円以下 2000万円を超える 総額未定 総数 26431 8317 2180 1133 1095 649 823 546 266 1625 6月未満 207 19 12 3 3 ━ ━ ━ ━ 1 6月以上 725 121 67 20 18 3 3 1 ━ 9 1年以上 1951 291 177 47 30 7 5 2 ━ 23 2年以上 1908 346 187 62 27 16 5 5 1 43 3年以上 1687 355 170 87 44 10 6 5 2 31 4年以上 1489 302 135 59 43 10 12 1 3 39 5年以上 1501 359 140 76 47 16 18 10 3 49 6年以上 1242 306 119 56 43 15 20 8 ━ 45 7年以上 1100 291 96 36 46 20 14 15 2 62 8年以上 998 291 104 39 35 21 21 10 4 57 9年以上 951 267 80 35 45 19 13 11 8 56 10年以上 979 336 88 56 53 22 24 12 5 76 11年以上 913 325 64 47 44 27 26 16 12 89 12年以上 862 281 63 41 41 21 25 15 4 71 13年以上 838 288 78 37 46 16 30 15 8 58 14年以上 700 248 59 32 29 17 21 18 7 65 15年以上 781 288 67 39 27 34 41 17 10 53 16年以上 683 238 63 30 31 25 29 9 7 44 17年以上 612 262 55 33 26 17 25 24 8 74 18年以上 594 242 43 31 30 20 33 21 7 57 19年以上 549 229 40 24 31 18 28 17 11 80 20年以上 2011 927 136 114 140 105 113 77 41 202 25年以上 3145 1704 137 129 216 190 311 237 123 361 不詳 5 1 ━ 1 ━ ━ ━ ━ ━ ━ 引用元:平成26年度司法統計年報 「離婚」の調停成立又は調停に代わる審判事件数「財産分与の支払額別婚姻期間別」全家庭裁判所
財産分与及び慰謝料の金額については、家庭によって異なる事情を有する夫婦が離婚することにともなって、それぞれの責任の重さを考慮して定めるものです。
金額を決める際には、夫婦の年齢、職業、資産内容、その他個別的な事情等が総合的に考慮されます。
そのため、交通事故の賠償金額のようなある程度の基準を、いわゆる相場として提示することが難しくなっています。
相場がいくらかは単純には算定できないことから、家庭裁判所における平均額もある程度の目安であり、絶対的な基準としてこだわるべきものではないと言えます。
もっとも、家庭裁判所で金額の取り決めをする場合、利害関係のない第三者である調停委員会による関与、調査官による客観的な調査などがあるため、実情と公正さを考慮したうえで行われます。
そのため、慰謝料や財産分与について、 何を基準に取り決めや話し合いをすればよいかわからないときには、家庭裁判所の提示する数字が一応の参考基準になります。
家庭裁判所を利用する場合は、ある程度の目安として役立つだけでなく、いたずらに高額な金額を提示される、泣き寝入りを強いられる、などのトラブルの防止につながります。
例えば、婚姻期間が10年程度の夫婦であれば、300〜500万円程度の金額を一応の目安とし、個別具体的な事情によって金額を調整していけば、無用な争いなどによる弊害を避けることにつながります。
離婚にともなう慰謝料及び財産分与についての金額を決める場合、交通事故などに比べて具体的な金額の相場を把握することは難しくなっています。
相場の目安として参考になるのは、裁判所のデータを統計にした司法統計です。
取り決めをする際の大体の金額を把握するのに役立ちます。
一応の金額が把握できたら、具体的な事情を考慮して金額に調整を加えていくと効率的です。