この2つはセットのように扱われがちですが、実は別々に考えるべきものであり注意が必要です。
離婚慰謝料と財産分与について詳しくご説明します。
離婚の際の慰謝料とは、離婚または離婚に至った理由によって生じた精神的苦痛に対して支払われる金銭のことです。
簡単に言うと、離婚による精神的な苦痛を慰め謝罪するためのお金であり、民法709条を法的な根拠とする損害賠償のひとつと考えられています。
どのようなことが慰謝料の発生原因となるかは夫婦ごとに異なりますが、一般的には浮気やDVなど離婚の原因となる行為によって生じた精神的な苦痛や、離婚をすること自体によって生じた心の傷に対して認められています。
離婚時の慰謝料は離婚の原因を作った側(有責者)が相手側に支払うべきものです。
性格の不一致など、どちらにも非のない離婚の場合には、慰謝料の問題は生じません。
慰謝料の要否や金額などは、基本的には夫婦の話し合いで決まります。
折り合いが付かなかった場合には、家庭裁判所での調停や裁判で決定します。
慰謝料のだいたいの相場は100~600万円ほどです。
次のような事情を総合的に考慮して決めます。
慰謝料は辛い思いに対する賠償金ですから、すべての事情を総合的に考慮して決めなくてはいけません。
離婚の際の財産分与とは、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を清算して分配することです。
精神的な苦痛があった場合に発生する慰謝料とは異なり、財産分与は離婚時に必ず発生します。
また、慰謝料は辛い思いをした側からしか請求できませんが、財産分与は双方から請求することができます。
財産分与の主な方法としては、次の3つがあります。
夫婦が共同で築いた財産を貢献度に応じて分配する
一方の離婚後の生活の安定のために、もう一方が支払う
慰謝料の意味を込めて、離婚原因を作った方がもう一方へ支払う
通常、財産分与は清算的財産分与で行います。
財産分与の割合はたいてい50:50で、夫婦で半分ずつ分けることが多いです。
しかし分与割合は家庭への寄与度や貢献度などによって変動することもあります。
このように、慰謝料と財産分与はまったく別の物です。
多くの人は慰謝料と財産分与を区別せずに話し合い、内訳を明確にせずに「離婚時に〇〇円支払う」というように決めてしまいます。
金銭問題はまとめて解決したいという気持ちは当然なのですが、これはよくありません。
「離婚時に〇〇円支払う」と決めてしまうと、あとになって「あれは財産分与だけ。
慰謝料はまだもらってない」などとして別途慰謝料を請求されたり、逆に慰謝料はあとで請求しようと思っていても「あれは慰謝料も含んでいる」として請求を拒まれたりするおそれがあります。
たとえ財産分与と慰謝料をまとめて支払うのだとしても、離婚協議書などに明細を記載するなどして必ず内訳を明確にしておくべきです。
裁判所も、慰謝料と財産分与は明確に別々のものであると考えています。
ひとつ裁判例をみておきましょう。
夫婦は夫の暴力や精神的虐待を理由に、裁判によって離婚しました。
その際、妻は財産分与として衣装ダンスと食器棚を得ましたが、裁判後7ヵ月が経ってから、改めて慰謝料を求める裁判を起こしました。
夫は財産分与が終わっているのだから別に慰謝料の請求は許されないと主張し、最高裁までもつれ込みました。
最高裁は夫の主張を退け、慰謝料の支払いを命じました。
これは昭和46年の古い判例ですが、今でも最高裁は同じ考え方を踏襲し続けており、慰謝料と財産分与は別物という判断は変わっていません。
いくら裁判所が慰謝料請求と財産分与を別物として考えているとしても、いつでも財産分与後の慰謝料請求を認めるわけではありません。
先ほどもご説明したように、慰謝料も含めた慰謝料的財産分与が行われる場合があり、そのような場合にまで改めて慰謝料を認めるのは過剰です。
裁判所は、財産分与があまりに低額な場合には慰謝料的財産分与とは認められず、精神的な苦痛を癒すに不十分と認められるときに改めて慰謝料を支払うべきとしています。
昭和46年の裁判例にあてはめると、タンスと食器棚は清算的財産分与に過ぎず、別途慰謝料を支払う義務があると判断したと考えられます。
慰謝料と財産分与は別物です。
慰謝料は精神的苦痛に対する損害賠償であり、財産分与は婚姻中の財産を分配するものです。
別々に考え、内訳を明確にしておきましょう。