離婚をするなら、財産分与は必ず発生します。
どれほどの円満離婚でも揉めに揉めた離婚でも、財産分与に関しては必ず話し合って決めなくてはいけません。
「夫婦で預金を半分こしたらいいんでしょ?」と思うかもしれませんが、実は意外と複雑です。
財産分与とはなにか、概要と注意点を詳しくご説明します。
離婚の際の財産分与とは、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を清算して分配することです。
夫婦として生活していれば、通常は共有として買ったものや一緒に貯めた預金などが積みあがっていきます。
これらは婚姻中に夫婦で築いた財産となり、離婚時には分ける必要があるのです。
離婚時には財産分与だけでなく他にも金銭問題が生じます。
同じく離婚時に問題になる代表的な金銭問題として慰謝料と養育費がありますが、これらと財産分与はまったくの別物です。
慰謝料はどちらかに非がある場合や精神的な苦痛があった場合に、それを慰め謝罪するために有責者が支払う金銭です。
また、養育費は、未成年の子どもがいる場合にその子の養育の費用として養育しない側が支払うものです。
このように、財産分与と慰謝料・養育費は発生原因も目的も違う別の物のため、分けて考える必要があります。
さらに、財産分与は慰謝料や養育費と違い、有責事項や子どもがなくても離婚時に必ず発生します。
離婚する夫婦は必ず財産分与について話し合い、決めなくてはいけません。
財産分与は夫婦どちらからも請求することができます。
慰謝料は辛い思いをした側から原因を作った側(有責者)にしか請求できませんし、養育費は子どもの養育を行っている側がもう他方から受け取るものです。
しかし財産分与は婚姻中の財産の分配であるため、有責者でも子どもの養育をしない側でも双方が請求し受け取ることができます。
離婚に対する非があるとかないとか、子どもがいるとかいないとかは、婚姻中の財産には関係のない事柄だからです。
財産分与の主な方法としては、次の3つがあります。
たいていの場合は清算的財産分与で財産分与を行います。
夫婦の協力によって蓄積された財産を、清算・分配してお互いの公平を図るのです。
分配割合は基本的には1/2ずつですが、貢献度などによって変動することもあります。
また婚姻中の費用の清算が含まれることもあり、たとえば家計から妻の実家にだけ仕送りをしていた場合には、妻側の分配は仕送りした分を減額とする場合があります。
どちらか一方が専業主婦(夫)や無職である場合には、清算的財産分与だけでは離婚後の生活が成り立たないことがあります。
就職先を探し安定した収入を得られるようになるまでの間、生活するだけの資金が必要です。
そのような場合には、収入が少ない方に多めに財産を分与し、離婚後もしばらくは安定した生活を送れるようにします。
慰謝料の意味をこめて慰謝料的財産分与を行う場合もあります。
有責側であるにもかかわらず慰謝料の支払いを頑なに拒んだり、慰謝料の名称が気に入らないから払わないとごねたりする人もおり、このような場合には金銭の名目で揉めるよりも慰謝料を含めた金額の財産分与をうける方が得策の場合もあるのです。
名より実を取るこの方法がうまくいくこともありますが、基本的にはおすすめしません。
金銭の内訳は明確にしておくべきです。
財産分与の対象となる財産は、「夫婦が婚姻中に協力して築いた財産」です。
名義は関係ありません。
夫婦が一緒に得た財産は、どちらの名義になっていたとしても、離婚時に分けて清算するのが公平であると考えられています。
財産分与の対象となる財産はいわば家庭にあるものすべてですが、主に以下のようなものがあります。
たとえ預貯金の名義人が夫であっても、婚姻中に得たお金は妻と協力して得たものとみなされます。
また、財産分与はプラスの資産だけでなくマイナスの負債も対象です。
婚姻中に組んだローンや借金などは夫婦で分けて負担することになります。
財産分与の対象となる財産の名義は関係ないと繰り返しお話ししてきましたが、これはあくまでも婚姻中の財産についての話です。
結婚前から所有している財産についてはその名義人の物であり、分与の対象となりません。
このような財産を「特有財産」といい、次のようなものがこれにあたります。
婚姻期間以外に得た財産は、基本的に財産分与の対象になりません。
しかし、婚姻中に得たものであっても、相続財産は名義人個人のものであり分与の対象ではありません。
相続という特別な理由で得た財産は、夫婦で協力して得たものとはいえないためです。
また、女性が使うアクセサリーや男性が使う髭剃りなど男女の区別があるものや個人の携帯電話などは、基本的には分与の対象になりません。
ただし、高額なアクセサリーなどは金銭的な財産性があるとして共有財産とみなされ、分与の対象になる場合があります。
財産の取得時期が婚姻中か前かわからない場合など、夫婦どちらかの特有財産であることが明確に証明できないこともあります。
このような財産は共有財産とみなされ、財産分与の対象になります。
財産分与の際に特有財産を主張したい場合には、通帳や購入明細書など取得年月日が証明できるものを用意しましょう。
財産分与の分け方や割合は夫婦の事情によって異なります。
具体的にはそのケースごとに考えるしかありませんが、代表的なケースをいくつかご紹介します。
夫婦のどちらかが外で働いて給与を得て、もう一方は家事など内のことに専念するという専業主婦(夫)であった場合、財産分与はどうなるのでしょうか。
たしかに得られる給与は外で働いた人の労働対価であり、名義も外で働いた人になっています。
しかし外で思いっきり働くことができるのは、家の中のことをやってくれる人がいるからこそです。
家事だけでなく子育てまで担っている専業主婦(夫)も多くいます。
このように、外で働いた人が持って帰ってくる給与には内助の功が含まれています。
名義がどうあれ、離婚するときには内助の功に対する評価を清算するのが公平です。
専業主婦(夫)の財産分与の割合は、その寄与の程度が明らかでない場合には1/2が原則です。
給与を貯めた預貯金や給与で購入した不動産などを1/2で割ったものが、それぞれの財産分与の額となります。
協議離婚の場合、専業主婦(夫)の内助の功は単純に1/2、つまり50%と評価することが多いです。
一般的なサラリーマン家庭における専業主婦(夫)の内助の功は、家庭裁判所の審判でも50%が一般的となっています。
しかし、裁判は具体的に寄与度を調査するため、30~50%とばらつきのある判断になる場合もあります。
特に貯蓄に優れていたなど高い寄与度が認められたケースで50%、夫が医師で病院経営に尽力したこその資産と判断されたケースでは20%など、さまざまな裁判例があります。
逆に、夫が遊び人で浪費の限りを尽くしていたのに妻が努力して家庭を維持してきたなどという事情があれば、50%以上の寄与度が認められる可能性もあります。
夫婦ともに働いて給与や報酬を得る共働き家庭も増えています。
共働き家庭の家計ルールは夫婦によって異なりますが、大きく3つに分けられます。
各自型は、たとえば夫婦それぞれが月10万円ずつ家計として出し、残りの給与は各自で管理するパターンです。
正社員夫婦に多く、残りの給与はお小遣いや貯蓄など各自で好きに使います。
このパターンの財産分与は単純で、家計から購入した物や家計から貯蓄した預貯金を分けることになります。
分与の割合は家計に出した金額や家事負担の割合を考慮して決めることが多いです。
合算型は、たとえば収入が多く安定している夫の給与を家計とし、妻の給与は補助的な収入として貯蓄や大型の買い物にあてるというパターンです。
夫が正社員、妻がパート従業員という夫婦に多いです。
この場合の財産分与は専業主婦(夫)の場合と同じく、内助の功に配慮する必要があります。
単純に収入の割合で決めるのではなく、家事負担や主たる収入への寄与度など、総合的に判断するのが公平です。
一方型はあまりありませんが、家計は専業主婦(夫)の場合と同じく主たる収入のみで賄い、補助的な収入は家計に入れないパターンです。
たとえば妻が自分のパート収入をへそくりにしている場合などがこれにあたります。
へそくりも財産分与の対象になるため、補助的な収入も財産分与の対象になります。
補助的な収入も合わせた財産を、寄与度などに応じて分配します。
ただ、単に夫が妻の収入を知らないだけの場合やへそくりという名目であっても家族のために使っていた場合など、一概に補助的な収入を家計に入れていないと判断できないケースもあります。
離婚時には家計簿などを用いて家計の収支を明確にし、どの収入をどう使っていたのか、夫婦で確認する必要があります。
このように、共働き家庭の財産分与は専業主婦(夫)の場合に比べると複雑です。
事情にあわせて、分与割合を判断する必要があります。
夫婦どちらかが専業主婦(夫)の場合には、離婚後の生活の安定を図るため、扶養的財産分与が行われることがあります。
扶養的財産分与では、扶養者であった側が被扶養者の専業主婦(夫)側に多めに財産を分与しますが、被扶養者の不貞が離婚原因となった場合はどうなるのでしょうか。
清算的財産分与に関しては、離婚原因に関係なく行われるべきものです。
婚姻中に築いた財産に、離婚原因は関係ありません。
しかし、離婚原因を自ら作っておきながら扶養的財産分与まで求めるのは少し虫が良すぎる話です。
被扶養者に離婚原因がある場合には、扶養的財産分与は行われないことがほとんどです。
また扶養的財産分与が行われるとしても、離婚原因を作った被扶養者は慰謝料を支払わなくてはいけないため、扶養的財産分と相殺されることが多いです。
離婚に際して、財産分与に関する約束事を念書にしたためる夫婦も多いです。
しかし、念書に反して財産分与が行われない場合には、改めて家庭裁判所に財産分与を求めることになります。
実際、財産分与のために売却を約束していた土地に夫が抵当権をつけるなどして売却を困難にしたため、妻が家庭裁判所に調停を求めた事例があります。
裁判所は土地を売却させることは裁判所にも容易ではないため、新たに金銭による財産分与を夫に求め、約1,500万円の支払いを命ずる審判を下しました。
最近熟年離婚が増えていますが、多くの場合は退職金が出るのを待って離婚することが多いようです。
退職金は給与などと同じく名義がどうあれ夫婦の共有財産のため、財産分与の対象になります。
退職金は高額ですから、できるだけ分与額が増える時に離婚を求めるのでしょう。
しかし、将来の退職金は財産分与の対象になるのか、不思議になりますよね。
たとえば退職金が出る1日前に離婚した場合には退職金が財産分与に含まれないが退職金支給後は含むとなると、なんだか不公平な気がします。
退職金を受け取る側が、退職前に強硬に離婚を迫るおそれもでてきます。
裁判では退職金が支給される可能性が高ければ、将来の退職金も財産分与に含むと判断しています。
退職金は賃金の後払いという性質があるため、内助の功で支えた側の寄与も配慮すべきというわけです。
結婚期間のうち夫婦が同居した期間に見合うだけの額が、財産分与の対象になります。
離婚前に別居した場合は、別居期間の寄与はなかったとみなされ、減額されます。
退職金の分与割合は基本的には50%と考えられていますが、裁判例が少ないため、ケースごとに事情を検討するしかありません。
たしかに退職金は財産分与の対象になりますが、たとえば20代で離婚する人が65歳でもらえる退職金の分与を求めることはできません。
まだ支給の可能性が薄いため、これを財産分与に含めると当事者に想定外の不利益を与えるおそれがあるからです。
裁判例では定年前6年程度をだいたいの期限としています。
離婚時にはお互い気持ちが高ぶっているため、「お金なんていらないからとにかく離婚したい!」「親権さえくれれば財産分与はいらない」などと言って財産分与の話し合いをしないまま離婚してしまうケースがあります。
そのような場合でも、離婚成立の日から2年間は財産分与を請求することができます。
2年経つと除斥期間が過ぎてしまったとして請求ができなくなるため、注意が必要です。
ただし、離婚協議書や念書に「財産分与は請求しない」などという条項があった場合には、2年以内であっても財産分与を受けられません。
財産分与は大切なことなので、必ず離婚前に決めておきましょう、
財産分与の金額が社会通念上相当なものであり、夫婦の共有財産の清算として妥当な内容であるならば、贈与税や所得税などの税金はかかりません。
財産分与は新たな所得などではなく、あくまでも婚姻中に築いた財産を分けただけだからです。
しかし不動産など現金以外での財産分与やあまりにも高額な場合には、譲渡所得税や贈与税が課税される場合があります。
財産分与は離婚時には必ず問題になります。
基本的には夫婦で話し合い、どの財産をどの割合でどう分与するのか決めましょう。
分与の割合は必ずしも夫婦で50:50ではありません。
夫婦のこれまでの生活状況や離婚原因など、家庭への寄与度を総合的に考慮する必要があります。