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裁判による離婚が認められるためには、民法で定める法定離婚事由が存在することを具体的に主張、立証しなければなりません。
協議離婚や調停離婚の場合と異なり、裁判離婚は法定離婚事由がなければ認められません。
ここでは、法定離婚事由とその具体的な内容について説明していきます。
法定離婚事由は、民法で5つ規定されています。
民法770条1項の条文は以下のとおりです。
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
では、この5つの事由について、どのようなものか一つずつ説明していきます。
1つ目の法定離婚事由は、不貞行為です。
不貞行為とは、俗にいう不倫、浮気のことです。
不倫、浮気の概念は、個人によってとらえ方や認識が異なるものですが、法定離婚事由で認められる不貞行為は、肉体関係を持っている場合のみを指します。
ただのデートや頻繁なメールのやり取り等でも不倫、浮気であり許容できないと考える人もいますが、それだけで法定離婚事由としての不貞行為には該当しないということです。
不貞行為を原因として裁判上の離婚を請求するには、配偶者と不貞相手の肉体関係を推認できる証拠が必要です。
しかし、密室での行為を証明する直接的な証拠を手にすることは難しいものです。
親密なメールのやり取りやデートのツーショット写真があっても、それで肉体関係までを推認することは通常できないからです。
最も有効な証拠としては、ラブホテルに二人で出入りしている写真などです。
男女がラブホテルに入ったことが証明できれば、不貞行為をしているであろうという推定が成り立つからです。
同様に、二人で宿泊旅行をしていることや、不貞相手の一人暮らしの家に宿泊していることを証明できれば、不貞行為の証拠となる場合があります。
写真や動画といった証拠がない場合でも、ラブホテルのレシートなども間接的な証拠となる場合があります。
細かいものでも、少しでも証拠になりそうなものはしっかり残しておきましょう。
夫婦が別居しているときに配偶者が不貞行為をした場合はどうなるでしょうか。
夫婦関係がすでに完全に破綻していれば、配偶者以外と肉体関係を持っても不貞行為とは認められません。
そのため、夫婦関係が破綻したのちの不貞行為を理由として慰謝料請求をしたり離婚請求をすることは困難です。
ただし、夫婦関係の破綻というのは単に不仲や別居しているだけで認定されるわけではなく、通常、別居が長期にわたっており、双方が修復する意思を持っておらず、実質的に離婚したのと同じような状況になっているような場合です。
配偶者への愛情が一方的に冷め、勝手に家を出て別居しているようなケースでは、夫婦関係の破綻を主張して不貞行為の慰謝料請求を免れたりすることは難しいでしょう。
不貞行為を認定する時に、それが遊びなのか本気なのかは関係ありません。
お互いに割り切った遊びの関係であったとしても、それが不貞行為を否定する抗弁とはなりえません。
また、性風俗店での性行為であっても、不貞行為と認定されることがあります。
恋愛感情を全く持たずに性行為をしているからといって、不貞行為が否定されるわけではありません。
ただし、不貞行為を理由とした離婚が認められるためには、ある程度継続的に不貞行為を行っていなければ認められない場合が多いです。
一度限りの関係であっても、不貞行為であることは事実ですが、それだけでは離婚を認められる事由としては弱いということです。
実際の離婚裁判では、不貞相手との同棲に至るくらい継続的で親密な関係になっていることがほとんどです。
不貞行為が発覚したものの、一度は配偶者を許し、夫婦関係の再構築を決心した場合でも、後から気持ちが変わった場合には過去の不貞行為を理由に離婚請求が認められるでしょうか。
実際、不貞行為を一旦は許したとしても、結局相手への不信感を払拭できずにその後関係がぎくしゃくしてしまうケースは多いです。
しかし、一度不貞行為を許した場合、後からそれを翻して不貞行為を理由に離婚請求をしても認められるケースは少ないでしょう。
このような場合は、不貞行為を理由にするよりも、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があることを主張立証する方が、離婚を求める場合有効なことがあります。
不貞行為の事実を証明できない場合は、別の法定離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして、離婚を請求できる可能性があります。
判例でも、「肉体関係を認定できるだけの証拠はないものの、二人の交際状況からみて、妻が夫に対し不信を抱くのは無理からぬものがあるとき、夫たるものはその疑惑の念を解き、生活態度を改め、不信を回復するよう誠意を尽くすべきであって、ずるずると交際を続けるようでは、不貞にまではならなくても婚姻を継続し難い重大な事由になる」としたものがあります。
ただし、不貞行為が認められないと、慰謝料請求が難しくなります。
2つ目の法定離婚事由は、悪意の遺棄です。
悪意の遺棄とは、どのようなことを指すのでしょうか。
夫婦には、同居して双方に協力して扶助する義務があります。
「遺棄」とは、この同居、協力、扶助の義務を放棄することです。
「悪意」とは、夫婦関係を破綻させる意思、意図を持っていることです。
単に、遺棄することで夫婦関係が破綻することを認知しているだけでなく、そうなってもいいという不誠実な態度であることを指します。
つまり、悪意の遺棄とは、夫婦関係を破綻させる意思、意図を持って夫婦の義務を放棄することです。
悪意の遺棄が認定されるのは具体的にどのようなケースがあるか紹介します。
夫婦には同居義務があります。
そのため、正当な理由がなく、夫婦間の合意もなしに一方的に別居してしまうと、同居義務違反で悪意の遺棄に該当する可能性が高いです。
たとえば、以下のような場合は悪意の遺棄が認められる可能性が高いでしょう。
一方、以下のような場合には同居義務違反とはなりません。
ただし、同居義務を怠っていることを理由として離婚を求めるには、ある程度継続的に同居義務違反が行われていなければ離婚は認められないことがほとんどです。
一方的に配偶者が家出したとしても、それが数日間のことであれば離婚が認められることはないでしょう。
夫婦には、日常生活などについての協力義務があります。
そのため、正当な理由がなく、夫婦間の合意なく協力義務を怠ると、協力義務違反で悪意の遺棄が認められる可能性があります。
たとえば、以下のような場合は悪意の遺棄が認められる可能性があります。
一方、以下のような場合には協力義務違反とはなりません。
夫婦には、お互いに扶助義務があります。
扶助義務というのは、通常経済的な扶助のことで、生活費の分担義務のことです。
正当な理由や夫婦間の合意がなく扶助義務を果たさないと、扶助義務違反で悪意の遺棄が認められる可能性があります。
たとえば、以下のような場合は悪意の遺棄が認められる可能性があります。
一方、以下のような場合には扶助義務違反となることはありません。
扶助義務違反については、生活費を払ったり払わなかったりを断続的に繰り返すケースもあります。
このような場合に、扶助義務違反だけを理由に離婚請求をしても難しいケースも多く、その時は別の離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして離婚請求をする選択肢もあります。
悪意の遺棄を理由として離婚の訴えを起こす場合、どのようなことを主張、立証するのでしょうか。
立証する必要があるのは、以下の事実です。
同居義務違反の場合、配偶者がいつ家を出ていったかの記録や、別居先の住まいの資料などがあるとよいでしょう。
家事の協力義務違反の場合、家事が放棄された状況の家の写真や日記などを残しておくことも有効でしょう。
扶助義務違反の場合、生活費用口座の入出金記録などが証拠となるでしょう。
悪意の遺棄は、同居義務、協力義務、扶助義務の3つがありますが、それぞれがどれか一つだけに該当することは少なく、複合的に違反している場合が多いです。
たとえば、一方的に家を出て生活費も払わず家事育児にも参加しないようなケースは、すべての義務を怠っているといえるでしょう。
悪意の遺棄に関する判例を紹介します。
昭和60年の判例で、夫の妻に対する悪意の遺棄が認められ、夫に慰謝料の支払いを命じたものがあります。
1.事実関係
障がい者認定を受け、半身不随の障がい者である妻を残して夫が家を出た。
夫は経済力があるにもかかわらず、それから5年間、別居の妻に生活費を一切払わなかった。
2.判決の要旨
夫は半身不随の身体障がい者で日常生活もままならない妻を、そのような不自由な生活、境遇にあることを知りながら自宅に置き去りにし、正当な理由もないまま家を飛び出して長期間別居を続け、その間妻に生活費を全く送金していないから、夫の行為は民法770条1項2号の「配偶者を悪意で遺棄したとき」に該当する。
これは、同居義務、扶助義務、協力義務のすべてを夫が怠っていた事案といえるでしょう。
昭和43年の判例で、悪意の遺棄は認められなかったものの、その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとして離婚を認めたものがあります。
1.事実関係
夫が仕事の出張などを理由に月の大半を自宅以外で生活するようになり、生活費をほとんど入れない状態で8年が経過した。
2.判決の要旨
夫がたとえ仕事のためとはいえ、あまりに多い出張、外泊等、家族を顧みない行動により、妻に対する夫としての同居協力扶助義務の義務を十分に尽くさなかったことをもって今直ちに原告に対する「悪意の遺棄」に当たるとするにはやや足りないけれども、なお「婚姻を継続しがたい重大事由」があるとするに十分であり、その責任の過半が夫にあることもまた明らかである。
仕事を原因とする別居であることなどから、悪意の遺棄までは認められなかったものの、婚姻を継続し難い重大な事由には該当すると判断されました。
3年以上の生死不明というのは、配偶者の生存が3年以上確認できない状態のことです。
生きていることはわかっているが居場所がわからないという場合には、該当しません。
生きていることがわかっている場合には、同居義務、扶助義務、協力義務に違反しているとして「悪意の遺棄」として離婚を請求できる可能性があります。
3年以上の生死不明に該当するのは、以下のような場合です。
これらの状態で、最後の音信や消息から3年が経過している場合のことです。
3年は連続していることが必要で、行方不明中に一度でも連絡があれば、連絡があった時点から起算して3年の経過が必要です。
3年以上の生死不明の場合の離婚手続きは、どのように行うのでしょうか。
3年以上の生死不明のときは、相手と連絡が取れないので協議離婚や調停離婚をすることができません。
そのため、通常の離婚の場合と異なり、調停を経ることなく最初から離婚の訴えを起こすことができます。
ただし、あらゆる手を尽くして捜索したけれど見つからなかったことの証拠資料が必要で、警察への捜索願の受理証明書や調査会社の調査報告書などがこれに該当します。
3年以上の生死不明を理由とした離婚が成立したのちに、元配偶者が生存していることが判明した場合はどうなるのでしょうか。
この場合でも、離婚を認める判決が覆ることはありません。
裁判以外の方法で、失踪宣告の制度を利用する方法があります。
突然家出して行方不明になったような一般的な場合では、7年間生死不明の状態が続けば、家庭裁判所に申し立てて失踪宣告の審判を受けることができます。
また、戦地や船の沈没、飛行機の墜落などの特別な危難にあったときは1年間の生死不明の状態で申し立てができます。
失踪宣告の制度は、離婚をする制度ではなく、失踪者を死亡したとみなすことができる制度です。
そのため、失踪宣告の審判を受けると、配偶者と離婚が成立するのではなく、配偶者が死亡したものとして相続が発生する効果があります。
離婚の場合は財産分与や慰謝料といった問題が発生しますが、失踪宣告の場合は遺産相続が発生します。
これらのことを考えて、裁判離婚を求めるのか、失踪宣告を申し立てるのかを検討しましょう。
4つ目の法定離婚事由は、配偶者が、回復の見込みのない強度の精神病に罹ってしまった場合です。
法定離婚事由の①から③までは、配偶者に落ち度や責任があるため、離婚されても仕方がないと考えられる事由となっていますが、この強度の精神病についてはそのような考え方は成り立ちません。
精神病に罹ることは本人の落ち度や責任であるとは通常考えられないからです。
とはいえ、配偶者が強度の精神病に罹ってしまった場合、通常の婚姻生活を送ることは著しく困難で、結婚生活は悲惨なものとなり破綻してしまうことが多いでしょう。
離婚の考え方そのものが有責主義から破綻主義に移行しており、精神病を原因とした離婚の例も多く、旧民法の離婚事由には存在しなかった離婚事由として、回復の見込みのない強度の精神病が規定されたのです。
離婚事由となる要件は、配偶者が①強度の精神病であり、②回復の見込みがない、ということです。
強度の精神病とは、統合失調症、認知症、躁うつ病、偏執病、初老期精神病などの高度な精神病のことです。
結婚生活に必要となる協力義務、扶助義務などを果たせないほど症状が重い状態を指します。
夫婦間での意思疎通や会話すらままならないといった状態です。
アルコール中毒、ヒステリー、薬物中毒、ノイローゼなどはここでいう精神病には通常含まれません。
そのような場合は、別の離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚を請求することを検討します。
回復の見込みがない状態かどうかについては、原則的に精神科医が診断するものとなります。
通常、治療が長期間にわたっており、一向に症状に回復の兆しがみられないような状態の時に精神科医が「回復の見込みがない」と判断します。
ただし、精神科医によって判断が分かれる場合もあるので、裁判では複数の精神科医に鑑定を依頼することもあります。
それらを参考にして最終的には裁判所が判断を下します。
法定離婚事由に規定されているものの、実際の裁判では強度の精神病による離婚を認めることに積極的であるとは言えません。
精神病に罹ったとしても、精神病患者との離婚を安易に認めてしまうと、離婚後の療養、生活がままならなくなってしまうことが多いという問題があります。
また、自らの落ち度や責任で精神病に罹ったわけではないこと、人権の問題なども裁判所は考慮するのでしょう。
そのため、以下のような条件が揃わないと精神病患者との離婚が認められることは困難です。
実際の判例では、どのように判断されているのでしょうか。
なかなか認められにくい精神病による離婚が認められた判例と、精神病による離婚ではなく「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして離婚が認められた判例を紹介します。
昭和45年の判例で、夫の請求による強度の精神病を理由とした離婚が認められています。
1.事実関係
生活に余裕のない中、妻の精神病の治療費を8年間払い続け、面倒を見てきた夫が離婚を請求した。
2.認められた事情
この判例の事案は、離婚しても精神病の妻が生活に困る可能性が極めて低い状況だったことや、妻の世話や子供の養育に貢献した内縁女性への配慮などから離婚が認められたと考えられます。
平成2年の判例で、夫の請求による婚姻を継続し難い重大な事由を原因とした離婚が認められています。
1.事実関係
2.認められた事情
この判例の事案では、あくまで「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚を認めており、強度の精神病での離婚には否定的です。
アルツハイマー型認知症を強度の精神病とした離婚は、非常に困難であることがわかります。
最後の法定離婚事由は、婚姻を継続し難い重大な事由がある場合です。
①から④までの離婚事由は具体的であるのに対し、この離婚事由は抽象的で不特定となっていますが、①から④に匹敵するくらいの重大な事由であって、それにより婚姻関係が完全に破綻していること、修復の見込みがないことが求められます。
では、具体的にはどのような内容があるでしょうか。
この離婚事由として、認められやすいもの、認められにくいものを紹介します。
以下のような内容の場合、程度にもよりますが、婚姻を継続し難い重大な事由に認められる可能性が比較的高くなります。
①暴力、虐待、侮辱行為
婚姻を継続し難い重大な事由の代表的なもので、裁判所も暴力等には厳しい目を向ける傾向があり、比較的離婚が認められやすいです。
暴力等は犯罪行為であり、いかなる事情があっても許されるものでなく、婚姻関係を破綻させることは明らかだからです。
②多額の借金やギャンブル依存症、浪費癖といった金銭問題
配偶者が身勝手な理由で度を越した借金を繰り返すような場合、婚姻関係は破綻してしまうでしょう。
ただし、返済可能な程度の借金や借金の理由に正当性がある場合には、離婚は通常認められません。
③犯罪で長期服役
犯罪の内容や動機、服役の期間や回数などにもよりますが、何度も犯罪を繰り返したり、服役が長期に及ぶ場合などは離婚が認められる可能性が高くなります。
④過度な宗教活動
単に夫婦で信仰が異なる場合には離婚理由にはなりませんが、夫婦生活に支障をきたすほど配偶者が宗教活動にのめりこんでいるような場合には、離婚が認められる可能性が高くなります。
判例では、幼い子供を一緒に入信させ、宗教活動のために昼夜を問わず外出して無断外泊をしていたようなケースで離婚が認められました。
⑤性的異常、性的な不満
裁判所も婚姻関係における性生活の重要性を認めており、相手が嫌がるような特殊な内容の性行為を強要し続けたりすると離婚が認められやすくなります。
ただし、セックスレスの場合はそれだけでは簡単に離婚は認められません。
セックスレスを発端として夫婦関係に亀裂が生じて婚姻関係が修復不可能な場合など、複合的にみて離婚が認められることはあります。
以下のような場合、余程の事情がなければ離婚は簡単には認められません。
①性格の不一致や価値観の違い
ただの性格の不一致で離婚が認められることは難しいでしょう。
ただし、性格の不一致がきっかけで夫婦仲が修復不可能なほど悪化し、別居が長期にわたって事実上離婚しているのと同様の状態になっているような場合、婚姻関係の破綻と認められ、離婚が認められる可能性があります。
②配偶者の親族との不和
単に配偶者の親族と不和なだけで離婚が認められる可能性は低いです。
ただし、配偶者の親族から暴言、侮辱、虐待などを受けており、それを配偶者が見て見ぬふりをしているような場合や、親族との不和を解消するための努力を怠って配偶者より親族の肩を持つことで夫婦関係が破綻している場合には、離婚が認められる可能性が高くなります。
③家事、育児の非協力
配偶者が家事、育児に非協力な場合でも、それだけで離婚が認められることは難しいでしょう。
ただし、家事育児に非協力なだけでなく、配偶者や子供にきつく当たったり、それを発端に夫婦関係が完全に破綻している場合には、複合的な理由から離婚が認められる可能性があります。
法定離婚事由について紹介してきました。
離婚を求める場合、通常理由は一つだけでなく、複合的な理由が積み重なった上でのケースが多いでしょう。
裁判所も、複合的な理由を総合的にみて離婚を認めるかどうかを判断します。
5つの離婚事由の複数に当てはまるような理由も多く、それらをどのように主張、立証していくのが効果的なのかは弁護士へ相談するなどして検討しましょう。