夫婦の離婚に伴って、夫が妻に対して慰謝料、財産分与、養育費などの支払いを約束したとしても、その後に必ず支払いをしてくれるとは限りません。
養育費などをきちんと支払ってくれない場合に、どのような方法がとれるかを解説していきます。
家庭裁判所の調停や審判によって養育費を決めた場合は、養育費の支払いをしない相手方に対して履行催告の手続きをすることができます。
履行勧告とは、養育費を支払う義務のある者に対して、決められた養育費をきちんと支払うように家庭裁判所が勧告を実施するものです。
家庭裁判所で養育費が決まった場合、養育費の金額や支払期日などを記載した、調停調書または審判書という書類が作成されます。
後に養育費がきちんと支払われなかった場合、養育費を取得できる権利者は家庭裁判所に対して履行勧告の申し出をすることが可能です。
家庭裁判所から勧告が行われることから、当事者が自分で履行を督促するよりも実効性が期待できます。
一方、あくまで勧告であるため、相手が勧告に従わない場合に支払いを強制するまでの効果はありません。
履行勧告よりも強い効果のある制度としては、履行命令があります。
履行命令とは、調停や審判で決定した義務をきちんと履行するように家庭裁判所が命じる制度です。
履行命令に対して正当な理由なく従わない場合、10万円以下の過料という形でペナルティを受ける可能性があります。
過料とは金銭を徴収する形での制裁の1種です。
金銭を徴収するものですが、罰金とは異なり刑罰ではありません。
履行命令は過料という制裁が加えられることで履行を担保しようとするものですが、強制的に養育費を支払わせることができない点は履行催告と同様です。
強制執行とは、勝訴判決を得た、調停が成立した、審判が確定した、強制執行が可能な旨の公正証書を作成した、などの場合において、相手が慰謝料や財産分与をきちんと支払ってくれないことに対して、支払いが行われた場合と同様の効果を強制的に実現するための手続きです。
強制執行による差し押さえの対象となる財産は、不動産、動産、債権の3種類です。
強制執行の例としては、妻が夫に対して離婚に伴って慰謝料の支払いを請求し、勝訴判決を得たにもかかわらず、夫が妻に慰謝料を支払わないことから、判決書を債務名義として夫が所有する不動産に対して強制執行の手続を申請する場合などです。
強制執行の注意点は、単に相手方が慰謝料と財産分与の支払いを約束しただけでは強制執行ができないことです。
強制執行をするためには、次にご説明する債務名義が必要になります。
債務名義とは、強制執行によって実現されることが予定されている請求権の存在を示す公の文章のことです。
強制執行を行うためには債務名義が必要になります。
債務名義には、請求権の範囲、債権者、債務者が表示されています。
債務名義の例としては、判決書、調停調書、審判書謄本、強制執行認諾約款付の公正証書などがあります。
判決書とは、裁判所が下した判決についての書類で、裁判官が署名・捺印した公文書です。
判決書には判決の主文、判決の理由、事件の事実関係などが記載されています。
調停調書とは、調停が成立した際に合意した内容をまとめた文書で、裁判所書記官が作成します。
調停において作成される書類で、確定判決と同様の効果があります。
審判書謄本とは、裁判所による審判の内容を文書にしたものです。
審判書の原本は裁判所にありますが、原本のコピーに裁判所が捺印したものが審判書謄本になります。
公正証書とは、公証人法に基づいて任命された公証人が作成した公文書です。
公正証書は書類として高い証明力があるため、法的なトラブルの防止のために利用されます。
強制執行認諾約款付の公正証書とは、公正証書に記載されている債務を履行しない場合は、直ちに強制執行の手続きを行うことができるという効力が認められた公正証書です。
債務名義に似た手続きとして、担保権の実行があります。
担保権の実行とは、債権者が債務者の財産に対して抵当権などの担保権を有している場合に、担保権を実行してその財産から金銭を得る手続のことです。
担保権の実行の例としては、離婚した夫が慰謝料を支払わない場合に、妻が夫の不動産に設定していた担保権を実行して競売にかけ、競売で得た代金から慰謝料を回収する場合などです。
担保権は債務名義不要で実行できるのが特徴です。
担保権が登記されている登記簿謄本などを提出することで、裁判所を介して手続をすることが可能です。
約束した財産分与や養育費などをきちんと支払ってくれない場合は、家庭裁判所によって決定したものであれば履行催告や履行命令になどの方法をとることができます。
強制執行による差し押さえによって、強制的に支払いを実現したい場合には、判決書などの債務名義が必要になってきます。
約束だけでは後のトラブルの防止に充分ではないので、強制執行の認諾付きの公正証書によって債務名義を取得することも重要です。