夫婦が離婚をする際、未成年の子どもがいる場合には、父親・母親のどちらかを親権者として決めなければなりません。
(親権者とよく混同しがちなものとして監護者とよばれるものがあります。親権者と監護者が同一人物であることが多いですが、必ずしも同一人物でなくても構いません。)
親権者は子どもの財産管理や身上監護(子どもを手元に置き、身の回りの世話など)を役務としていますが、監護者は、親権者の役割のうち、身上監護のみを役割としています。
また親権者は子どもの戸籍に記載されますが、監護者は戸籍には記載されません。
そして離婚の際に決めた親権者は、当事者の合意のみで変更することは出来ず(監護者は、当事者の合意のみで変更が可能です)、必ず裁判所の許可が必要とされています。
インターネットでは、「一度決めた親権者を変更するのは難しい」という記述を見かけます。
離婚の際に当事者や場合によっては裁判所を交えて十分に議論された上で親権が決められた訳ですから、両親の都合のみで勝手に親権が変更されては、子どもの発育にもよくないと考えられているからです。
しかし可能性がない訳でもありません。
今回は、親権者変更の手続きと判断基準、特に親権者が子どもに対し虐待を行っているケースについて見ていきましょう。
まずは、家庭裁判所に調停(裁判所を交えた話し合いのようなもの)もしくは審判(調停で解決しない場合などに裁判所に結論を出してもらう手続き)を申し立てます。
離婚のように必ずしも調停を行わなければならずという決まりはなく、現在の親権者が行方不明など、調停を進めることが困難な場合には、最初から審判を申し立ててもよいでしょう。
離婚をする際に親権者を決める手続きと、そこまで大幅な違いはありません。
子どもが15歳以上である場合には子ども自身の意思も尊重され(15歳未満でも、子どもの意見を判断基準とすることはあります)、また、調査官とよばれる教育・福祉の専門家が調査を行い、親権者を変更すべきかどうかについて、当事者の意見や現状などを調査します。
ポイントは、「なぜ一度決めた親権者を変更しなければならないのか」という点を、調査官に分かってもらうことです。
調停もしくは審判の決定が出てから10日以内に、子どももしくは新たな親権者となった親の所在地の市町村役場に届け出を行わなければなりません。
10日を過ぎると、調停(もしくは審判)の効果が失われるということにはなりませんが、過料(つまり罰金)を受けることもあります。
先ほど述べたとおり、一度決めた親権者を変更することは容易ではありません。
変更が認められるには、「子の利益のため必要があると認めるとき」とされております。
加えて、子どもが15歳以上の場合は、子ども自身の意思も尊重されます。
本ケースでは、子どもが虐待されている場合や、親権者が行方不明、育児放棄が認められる場合を例に例えてみましょう。
親権者を変更しないと、子どもの発育どころか生死に関わる問題でもあります。
絶対とはいえませんが、親権者が変更される可能性が高いといえます。
児童相談所や、児童相談員などが関与している場合は、担当職員の意見や報告書も重要です。
また、親権者を変更しても、その新たな親権者の元で新たな虐待が行われては意味がありませんから、新たな親権者(つまりは虐待などをしていた親権者の元配偶者)が、子どもを育てるのに適切な環境(収入や生活環境など)であるかも重要です。
また、虐待が現に行われているなど、子どもの発育や生死に重大な影響を及ぼす恐れがある場合には、調停や審判の結論が出る前に、「親権停止(あるいは喪失)の(仮)処分申立」といった現在の親権者の親権を停止(あるいは無くす)してもらう手続きを行う場合や、児童相談所の通告し、児童養護施設に預けるという手段を用いる場合もあります。
そのほか、「子の引き渡し仮処分」といって、親権者変更の決定が出る前に子どもを自分の手元に置けるように裁判を求める手段を用いることもあります。
一度決めた親権を変更することは困難ですが、親権を変更しなければ子どもの発育に影響が出る場合には、裁判の手続きを経たうえで、親権を変更することは可能です。
ただし、虐待などの疑いがあり、迅速な手続きをしなければ、子どもの生死に影響が出る場合には、親権者変更の手続きと同時に、あるいは先にさまざまな手続きを行うこともあり、どの手段を用いることが、子どもにとってベストであるかは、当事者のみでは感情的になってしまい冷静な判断が出来ない可能性もありますから、専門家の判断を仰ぐのも方法の一つと言えるでしょう。