Contents
離婚を機に、妻が子を引き取って育てていく場合、妻は別れた夫に対して、養育費を請求することができます。
養育費の支払いについて、夫婦間で具体的な取り決めを、たとえば合意書といった形で書面にしていれば、合意書で取り決めた金額の養育費が毎月夫から妻へ支払われることになります。
もっとも、このような書面を交わしたにもかかわらず、別れた夫が一切養育費を支払ってこないことがあります。
夫に養育費の支払いを催促することにより、夫が支払いに応じる場合もありますが、多くの場合は、妻からの再三の催促にも応えず、支払いをしてきません。
妻にとっては、夫から養育費の支払いを受けられないまま、時間だけが過ぎていき、経済的に苦しくなる一方です。
このような場合には、任意に請求することを諦め、裁判手続きを使って、別れた夫に養育費の支払いを請求すべきでしょう。
適当にごまかすばかりで一向に養育費を支払ってこないような相手とは、話し合うだけ時間の無駄です。
このような場合には、直ちに裁判手続きを使うことを検討すべきでしょう。
もっとも、養育費などの支払いを求める場合(=「家事事件」といいます)、原則として裁判をいきなり起こすことはできません。
家事事件のように、家庭内におけるトラブルが問題となっているような場合は、第三者である裁判所が中に入って判断を下すのでなく、当事者間での話し合いによって解決することが理想的であるといえるからです。
そのため、家事事件については、原則として、裁判を起こす前に、調停を申し立てなければなりません(=「調停前置主義」といいます)。
しかし、調停はあくまで当事者間での話し合いが前提となるため、条件面で折り合いがつかなければ、調停は不成立(=「不調」といいます)となりますので、必ずしも早期解決を望めるというわけではありません。
そこで、養育費や財産分与などの離婚給付を相手に請求する場合には、調停ではなく、いきなり裁判を起こすことができるとする制度が用意されています。
別れた夫が養育費の支払いに一切応じない場合において、夫婦間で養育費の支払いに関する契約書などが交わされている場合には、簡易裁判所において、少額訴訟を起こすことができます。
「少額訴訟」とは、相手に請求する金額が60万円以下である場合に利用できる制度です。
少額訴訟は、通常裁判のように、何回も期日が開かれるわけではなく、原則として、1回の期日(簡単な証拠調べや尋問が中心的に行われる)で判決を出してもらえます。
そのうえ、被告側は少額訴訟によって下された判決を不服として、控訴することもできませんので、審理が長引くといったこともなく、調停手続きよりも早期に解決が図られるというメリットがあります。
さらに、少額訴訟を起こすのに必要な費用も通常訴訟の2分の1で済み、経済的な負担も軽い裁判手続きです。
実際に少額訴訟を起こすには、夫婦間で交わした契約書などを証拠として、相手の住所地を管轄する簡易裁判所に訴状を提出しなければなりません。
この訴状には、原告と被告、請求の趣旨(相手に何を求めるのか、相手にいくら請求するのかなど)などを記載する必要がありますが、簡易裁判所には、訴状のひな型が備え置かれていますので、このひな型に記載されている案内に従って、必要事項を記入していけば、訴状を作成することができます。
仮に不明な点があれば、窓口で問い合わせることもできます。
このほかにも、訴状のひな型は裁判所のホームページでダウンロードすることもできます。
このように、少額訴訟は早期に判決を出してくれる制度であるため、夫が支払いに応じない場合には、直ちに、その判決(=「債務名義」といいます)に基づいて、夫の給料を差し押さえることも可能です。
また、手続面においても、特に複雑なことはなく、本人が1人で起こすことも可能です。
少額訴訟と同様に、養育費や財産分与の支払いについて、夫婦間で具体的な取り決めを書面化している場合には、簡易裁判所において、支払督促を申し立てることもできます。
「支払督促」とは、金銭の支払いを請求する人(債権者)の申立てにより、裁判所が、金銭の支払義務を負う人(債務者)に対し、金銭の支払いをするよう命じてくれる手続きです。
この場合、債務者が2週間以内に異議を出さなければ、債権者の請求はそのまま認められ、債務者が支払いに応じない場合には、夫の給料を差し押さえることも可能です。
支払督促は、書面審査のみで進められる手続であるため、早期に解決を図ることが可能です。
もっとも、以上のことは、あくまで債務者から2週間以内に異議が出なかった場合にだけあてはまることであり、債務者が異議を出した場合(=「督促異議」といいます)には、通常裁判で改めて審理されることになります。
姑による嫌がらせ(=「不法行為」離婚後に、その原因となった夫の浮気や姑による嫌がらせ(=「不法行為」といいます)を根拠として、慰謝料を請求するような場合には、地方裁判所に通常裁判を起こすことができます。
通常裁判を起こす際にも、少額訴訟と同様に、訴状を提出する必要がありますが、少額訴訟とは異なり、通常裁判における審理は1回きりではありません。
何回も審理を重ねたうえで、裁判所が最終的な判断を示すことになりますが、通常裁判における審理では、詳細な証拠調べや尋問なども想定されますので、本人で対応するには限界があります。
通常裁判になれば、相手も弁護士などの専門家を立ててくることが一般的であるため、自分1人で対応するのではなく、弁護士などの専門家に依頼することをお勧めします。
少額訴訟制度は、早期に結論が出るという意味で、別れた夫から未払いの養育費を早く支払ってもらいたいような場合には、大変効率的な制度です。
もっとも、別れた夫から「少額訴訟ではなく通常裁判で審理をして欲しい」との申し出があると、少額訴訟制度は使えなくなり、通常裁判で審理されることになります。
また、少額訴訟で相手に請求できる養育費はあくまで支払期日が到来しているものに限られますので、将来発生する養育費まで請求に含めることはできません。
そのため、別れた夫が養育費の支払いを怠ったことを受けて、その分を少額訴訟で請求することになります。
少額訴訟は、低額で起こすことができるとはいえ、年に10回以上起こすことはできないとされていることも加味すると、毎月のように養育費の支払いを怠るような相手に対しては、適さない裁判手続きであるともいえるでしょう。
養育費を一切支払ってくれない夫から、一刻も早く養育費を支払ってもらいたい、というような状況にある場合は、少額訴訟という制度の利用を検討すべき必要があります。
少額訴訟は、早期に解決を図ることができるというメリットがありますが、他方で、支払期日が到来したものに限ってしか請求することができません。
それまでの養育費の支払状況や夫の態度などを考慮して、少額訴訟を利用すべきかどうかをきちんと見極めることが重要です。