夫からのDV(家庭内暴力)が原因で離婚する夫婦が増えてきています。
裁判所が公開している離婚原因のデータでは、妻側の理由として直接的暴力と間接的暴力(精神的虐待、いわゆるモラハラ)を合わせた件数は、1位の「性格の不一致」よりも多いくらいです(平成29年度の司法統計による)。
これは裁判所を利用した、すなわち調停を申し立てた件数のみの統計なので、実際の割合はもっと少ないでしょうが、逆にDVを原因とする離婚が裁判所を利用してなされる割合が非常に多いことを表しています。
しかし、自分が夫から受けた身体的、精神的痛手の慰謝料はもちろんのこと、小さな子供を抱えている場合、妻としては何としても今後の養育費を夫に支払ってもらいたいはずです。
そのための方法を解説します。
離婚原因が何であれ、夫婦の間に未成年の子がいれば、離婚後もそれぞれの親に等しく子供を養育する義務が課せられます。
日本では親権を母親である妻が持つ割合が大変高く、妻は子供が小さい間は安定した収入を得られないことが多いので、夫が養育費を支払って支援することで養育義務を果たすというのが一般的なケースです。
つまり養育費は夫が妻(正確には子)に厚意で払ってあげるという類いのものではありません。
妻は当然に夫へ請求することができるのです。
また、慰謝料は「故意または過失によって他人の権利または法律上保護された利益を侵害」する「不法行為」をした者に対し、損害賠償責任を認めていますが(民法第709条)、精神的苦痛という非財産的損害を受けた者に対しても第709条を根拠に賠償責任があるとしています(第710条)。
離婚する夫婦の場合にも当てはまり、DVやモラハラは精神的苦痛と認められ得ますから、しっかり請求すべきなのです。
さらに夫婦が離婚する時には財産分与を求めることができます。
民法は、婚姻期間中に夫婦で築いた共同財産について相手方に対し財産分与の請求をすることを認めています(第768条1項)。
たとえ夫の収入のみで生活していても、妻の働きにより家庭を守ってこられたのですから問題ありません。
また、離婚前に別居していた場合、離婚成立までにかかった婚姻費用(生活を維持していくための費用)を請求することもできますし、年金分割も求めることができるようになりました。
子供と共に新たな生活をするためにお金は絶対必要ですから、請求できるものは臆せず請求すべきなのです。
慰謝料や養育費の支払いをどうするかについては夫婦間の話し合いが欠かせません。
しかし、DVを原因とする場合にはその話し合い自体が非常に難しいのです。
話そうと思っても夫からの暴力が怖くて言い出せないし、そもそも夫が離婚にすら応じないということもよくあります。
DV夫の中には自分が暴力を振るっている自覚がなく、妻に(自分が思う)正しい方向を教えているだけであり、家庭は円満だと思い込んでいる場合があるのです。
また、妻に対する執着心も強いことが多いです。
一方、妻には暴力を振るうが子供には手を上げないという夫も少なからずいます。
この場合、離婚には応じたとしても親権や面会交渉で揉めるケースが出てきます。
DVを受けている妻側としては夫と話し合うことはもとより、顔を合わせるだけで恐怖を感じ、暴力から逃れるため離婚前に子供を連れて家を出ることも多く、ますます協議することが難しい状況となります。
現状から逃れるためであればお金は要らない、下手に養育費などもらうと関係が続いてしまうのではと怖れ、離婚さえできれば十分だと思ってしまいます。
話し合いのできる状況が作れないというのが一番の問題点です。
家を出ることで協議は難しくなると述べましたが、実はDV夫と離婚するためにはまず家を出ていくことから始めるべきだともいえます。
肉体的、精神的な疲弊から逃れて安息を得ることで自分のこれからを考える時間ができるからです。
自分だけでなく子供も被害に遭っているケースであればなおさらです。
いわゆるDV法の施行により警察に助けを求め、夫が自分の周りをうろつくことを禁止する保護命令を出してもらえるようになりましたが、それでもDV被害はしばしば痛ましい事件を引き起こします。
夫に実家を知られている場合、避難先とすることに不安を感じるかもしれません。
かといって引越しする費用もなければ出ていこうにも出られません。
そういう場合は各都道府県に数か所ある、「配偶者暴力支援センター」に連絡して下さい。
センターでは緊急の場合、一時的に保護をしてくれ、その後事情に応じて居住及び保護施設を利用するための援助もします。
まずは夫と離れ、それから離婚に向けた交渉を始めるようにしましょう。
慰謝料や養育費は欲しい、でも夫と話したくない時には間に誰かを立てて交渉してもらうしかありません。
DVによる離婚交渉であれば、弁護士が一番の適任です。
離婚問題に詳しい弁護士に全ての交渉を任せれば、妻は一切夫と顔を合わせずにすみます。
つい、まずは親しい友人や双方の親族などに間に入ってもらおうと考えるかもしれませんが避けるべきです。
DV夫やモラハラ夫の場合、家庭外ではごく普通に振舞っていることがあり、いくら妻から話を聞いていても友人や親族ですら夫と話すと「なんだ、優しそうな夫じゃないか。
大したことはないな」と感じてしまうかもしれません。
あるいは逆に夫から涙ながらに反省され、ほだされてしまう場合もあります。
それならまだしも、突然逆上して「妻に会わせろ」と交渉人に暴力を振るうようなことがあっては大変です。
その点、場数を踏んでいる弁護士であれば、まず夫の言葉や態度に丸め込まれません。
夫からしても弁護士が相手では暴力に訴えることはしないでしょう。
自分がそういう人間であると弁護士に知られたくないからです。
全くの第三者であり法律の専門家である弁護士が介入することで、夫が交渉に応じる可能性が出てきますし、もし話し合いに応じなくても調停や審判を申し立ててくれます。
そして引き続き妻の代理人として夫側と交渉を続けてもらえます。
<妻が夫からDVを受けた場合に保護を求められる役所>
配偶者暴力 相談支援センター | 警察署(交番) | 地方裁判所 | |
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設置先 | 【都道府県】 婦人相談所 【市区町村】 婦人相談室 婦人保護施設 | 各地域 | 各地域 |
対応 | ・相談 ・医学的、心理的な指導を行う ・情報の提供と助言 ・被害者、家族が緊急時の保護を行う ・自立支援 など | ・DV抑止 ・被害防止措置の教示 ・被害発生防止に必要な措置 【具体例】 ・居住先を知られないように手配 被害防止の為の連絡をする | 身体的暴力、生命への脅迫、生命や身体に重大な危害を加える恐れがある場合夫へ保護命令を出す ①6か月間、妻の住所、職場付近の徘徊・付きまとい禁止 ②妻と同居の場合は2か月間その住居から退去するなど |
夫と代理人との話し合いが不調であれば、代理人は家庭裁判所(家裁)に離婚調停を申し立てることになります。
離婚調停は妻側からの申立てだけで始められます。
調停は、離婚するかしないかをはじめ、お金に関すること、親権に関することなどさまざまな問題を夫側と妻側が話し合う場所であり、当事者同士が顔を合さずに交渉を進めることができます。
調停の際は裁判官(または調査官)1名と調停委員2名が同席し、双方の意見を聞いて話し合いをまとめていきます。
なお、通常の家事事件と違い、離婚調停委員は常に男女1名ずつとなっています。
夫婦どちらにも公平な判断ができるようにとする配慮です。
調停委員は民間人が務めますが、40歳から70歳未満の法律などの専門家や、長く地域社会で活躍、活動していた人などから選ばれます。
離婚調停のために家裁に支払う費用は1,200円+連絡用郵便切手の予納だけです。
切手代は家裁によって多少変わりますが、だいたい1,000円前後です。
また、どこの裁判所に調停を申し立てるかについては、相手方(夫側)の住所地を管轄する家裁とするのが原則です。
しかし、夫から逃れた妻が遠方に住むことになり、調停を行うに妻側の負担が大きい場合など、家裁が「事件を処理するために特に必要があると認める」と判断すれば管轄を移送する処理(自庁処理)をしてくれます。
自庁処理を望む場合は「自庁処理の上申」を家裁に提出する必要があります。
調停申し立てが受理されれば1度目の話し合いの日程(調停期日)が夫婦に連絡され、調停が始まります。
弁護士に代理を頼む場合であれば必要な書類や請求の内容などを用意してくれますが、もし自身で調停を行う場合にはしっかりと自分の意見と相手への要求を調停の場で言えるように準備しておきましょう。
調停は双方が出席する場合、合意に至るまで、または不成立となるまでに3回前後行われます。
期間として6ヵ月前後かかることが多いです。
もちろん調停の回数が増えたからといって家裁に追加費用を払う必要はありません。
調停に相手が出席しない、合意に至らないなどの理由で調停が不成立となったら、最後の手段として離婚訴訟に持ち込むことになります。
自分や子供の将来のために必要であると思うなら、裁判をためらうことはありません。
弁護士がついていればよく相談し、決断して下さい。
離婚訴訟では不成立ということはなく、裁判官は必ず結論を出さなければなりません。
ただ、たいていの場合和解を勧めることが多いようです。
なるべく双方の事情や考えに沿う結論を出すには、判決より和解がふさわしいと考えるからです。
もちろん和解であっても裁判所が書類を作成するので判決文と同じ効果があり、支払いがない場合強制執行を申し立てることができます。
夫と顔を合わさず、安全に、かつ納得のいく請求をするためには弁護士へ依頼した方がよいですが、誰でもよいわけではありません。
弁護士にもいろいろな専門分野があります。
離婚やDV案件を多く扱っている弁護士を探しましょう。
全国各地にある「法テラス」では、弁護士が無料相談にのってくれます。
DV案件の場合、まず自分と子供の身の安全を確保しましょう。
そして公的な機関や専門家で利用できるものはしっかり利用し、納得いく解決の道筋をつけましょう。