離婚を急ぐあまり、離婚の際に慰謝料や請求権について取り決めをしない場合は少なくありません。
離婚の際に取り決めをしなかった場合にも、離婚後に慰謝料や財産分与を相手に請求することは原則として可能です。
ただし例外として、離婚の際に慰謝料や財産分与の請求権を放棄してしまった場合には、重大な事由がない限り請求することができなくなります。
今回は、離婚の際に慰謝料や財産分与の取り決めをしなかった場合、請求権を放棄してしまった場合について解説していきます。
離婚する際に財産分与や慰謝料を請求しなかった場合でも、離婚後に請求することは可能です。
ただし、相手方に請求できる期間は限られているため、離婚後にいつまでも請求できるわけではありません。
財産分与については離婚から2年、慰謝料は損害及び加害者を知った時から3年で時効になります。
これは厳密には裁判所を通じて請求できる期間についてですので、相手方が任意に支払いに応じてくれた場合には期間を過ぎていても無効になるわけではありません。
もっとも、離婚後に長い年数が経過した後に財産分与や慰謝料の請求に任意で応じてもらえる可能性は一般的に高いとはいえないので、離婚後に早めに請求しておくほうが安心です。
特に、財産分与については離婚から2年と期間が短いので注意しておく必要があります。
財産分与や慰謝料などの取り決めをせずに離婚をしても、それらの支払いを離婚後に相手に請求することは可能ですが、相手が必ず話し合いに応じてくれるとは限りません。
法的に相手に請求できる期間を過ぎていないとしても、相手が話し合いに応じない、話がまとまらない場合は少なくありません。
その場合は、家庭裁判所に調停を申し立てるという方法があります。
調停が成立しない場合は、家庭裁判所の審判によって慰謝料や財産分与の有無、金額などを決めてもらうことが可能です。
注意点として、離婚の際に慰謝料や財産分与について相手に請求する権利(請求権)を放棄した場合は、後に慰謝料などを請求したくなったとしても、請求することはできなくなります。
請求権を放棄したといえる例としては、離婚についての取り決めの内容を記載した離婚協議書等に、離婚に関する一切の債権及び債務についての関係はないものとする、離婚後も将来において離婚に関する一切の請求はおこなわないものとする、などの規定を記載した場合です。
いったん請求権を放棄する旨の取り決めをしてしまうと、取り決めの際に詐欺や強迫などの不正行為や、離婚協議の中核に影響するような重要な錯誤がない限り、慰謝料などの請求はできなくなります。
離婚に向けて手続きを行う際に、できるだけ早く離婚を成立させたいと焦ってしまうことで、相手に言われるまま権利を放棄してしまうことがありますが、これは不当な結果につながりかねません。
例えば、とにかく夫と早く別れたいばかりに、慰謝料も財産分与も何も要求しないという約束で離婚協議書を作成、合意してしまった場合には、離婚して1年後に財産分与を請求しても認められることは非常に困難になります。
離婚協議書等によって離婚に関する事項の取り決めをする場合には、協議によって決定する各項目について、本当にそれで良いかをきちんと確認することが重要です。
必要な場合には合意する前に法律の専門家などに相談することも1つの方法です。
不貞行為とは、夫婦関係にある男女(内縁関係や婚約も含む)の一方が、相手以外の人物と自由意志によって肉体関係を持つことです。
簡単に言えば不倫関係を持つということであり、不貞行為の相手方とは不倫の相手のことです。
不貞行為については、婚姻関係にある男女が互い貞操を保つという義務である、貞操義務に違反するものとされています。
法律上は民法770条1項において、離婚原因の1つとして定められています。
離婚の際に慰謝料を請求しない旨の夫との離婚協議書等に合意した場合でも、不貞行為の相手方には慰謝料を請求できる可能性があります。
この点、不倫という形で不貞行為を行った夫とその相手は、妻からの慰謝料請求権については夫が主たる債務者、相手が連帯債務者と構成することも考えられます。
そうであるとすれば、主たる債務者である夫に対して請求権の放棄に合意していれば、あくまで主たる債務が存在することを前提として責任を負う連帯債務者である不倫相手についても、慰謝料を請求し得ないことになります。
これについて判例は、夫に対して債務を免除したとしても、そのことは不倫相手への請求権には影響せず、不倫相手に対する慰謝料請求権は消滅しないと判断しました。
それによって、夫婦間において慰謝料請求権を放棄する旨の合意が成立していたとしても、不貞行為の相手方に慰謝料を請求することは妨げられないことが認められました。
離婚の際に取り決めをしなかった場合でも、離婚後に慰謝料や財産分与を相手に請求することは、法律で規定された期間を経過していない限り原則として可能です。
例外として、離婚の際に慰謝料や財産分与の請求権を放棄してしまった場合には、詐欺や錯誤などの重大な事由がない限り相手に請求できなくなります。
その場合でも、不倫についての慰謝料は不倫相手に対して請求できる可能性があります。