不倫したのは悪いと思ってはいても、「妻(夫)と暮らすのはもう無理」「不倫相手と再婚したい」という場合もあることでしょう。
通常、離婚は不倫などをされて被害を受けた側の配偶者から請求するものです。
みずから離婚原因を作った有責配偶者の側から離婚を請求しても、相手が応じなければ離婚するのは容易ではありません。
しかし、不貞行為をした側からの離婚請求もまったく認められないわけではありません。
今回は、どんな場合に不貞行為をした側からの離婚請求が認められるのか、離婚するためにはどうすればよいのかについて解説していきます。
原則として不倫をした側から離婚請求することはできませんが、例外的に離婚請求できる場合もあります。
この原則と例外の関係について、わかりやすくご説明します。
夫婦がお互いに合意して離婚する場合は別として、離婚を請求するためには法律上の離婚原因(法定離婚原因)があることが必要です。
法定離婚原因は、民法第770条1項に5つの事由が定められています。
そのうちの一つに、「配偶者に不貞な行為があったとき」(同条項1号)という事由があります。
この事由は、読んでおわかりのことと思いますが、配偶者が不貞行為をしたときに、された側の配偶者が離婚請求できるという形で定められています。
つまり、夫が不貞行為をした場合は妻から離婚請求できますが、夫からはできないのが原則です。
みずから離婚原因を作った夫からの離婚請求を認めて妻子を路頭に迷わせることは、社会正義にも反することです。
そのため、裁判例でも以前は有責配偶者からの離婚請求は認められていなかった時代がありました。
しかし、法定離婚原因は一つではないので、事案によっては不倫をした側が主張できる法定離婚原因が存在する場合もあります。
民法第770条1項に定められた5つの離婚事由の中に「その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」(同条項5号)というものがあります。
婚姻関係が破たんしている場合は、婚姻を継続しがたい重大な事由があるときに該当します。
この場合は、夫婦のどちらからでも離婚請求をすることができます。
不倫した側は、不貞行為をしたことを理由に離婚請求できなくても、婚姻関係が破たんしていることを理由に離婚請求できる場合があるのです。
裁判例でも、婚姻関係が破たんしているケースで有責配偶者からの離婚請求を認めた最高裁判決が昭和62年に出されました。
それ以降、一定の要件のもとに有責配偶者からの離婚請求が裁判で認められるようになりました。
とはいえ、現在でも有責配偶者からの離婚請求が容易に認められるものではないことに注意が必要です。
有責配偶者からの離婚請求が認められるためには、婚姻関係が破たんしていることを前提として、離婚請求を認めることが社会正義に反しない場合であることが必要です。
そのような場合に該当する条件として、先ほどご紹介した昭和62年の最高裁判決では、以下の3つを掲げました。
その後の裁判例でも、概ねこの3つの条件を満たすかどうかを個別の事情を考慮しつつ判断し、結論を出しています。
そこで、3つの条件についてそれぞれ詳しくご説明します。
夫婦が別居していることは、婚姻関係が破たんしていることを示す事由の一つです。
別居が長期間に及べば及ぶほど、婚姻関係の破たんが認められやすくなります。
そのため、不貞行為をした側から離婚請求するために別居を始め、ある程度の期間継続するというのも一つの方法です。
どれくらいの期間別居が続けば離婚が認められるのか、一概に言うことはできませんが、一つの目安としては10年程度といわれています。
ただし、離婚が認められるかどうかは他の事情も考慮して総合的に判断されます。
一律に10年の別居で離婚が認められるというわけではありません。
裁判例では、6年の別居で離婚が認められたケースもあれば、17年の別居で離婚が認められなかったケースもあります。
10年というのは、相場的な目安としてお考えください。
未成熟子とは、必ずしも未成年の子を意味するわけではなく、子が経済的に自立しているかどうかで判断されます。
18歳でも就職して定収入があれば未成熟子ではなく、成年であっても障害があるなどの事情で自立できていなければ未成熟子であると判断されます。
夫婦間に未成熟子がいる場合は、離婚によって相手方配偶者の生活や精神に及ぼす影響の程度が大きくなります。
そのため、たとえ婚姻関係が破たんしていても、有責配偶者からの離婚請求は認められにくくなります。
また、未成熟子の生活や成長をかえりみない有責配偶者からの離婚請求を認めることは、社会正義に反することでもあります。
ただ、未成熟子がいれば離婚請求が一切認められないわけではありません。
十分な養育費を支払うなどして妻子の生活に配慮し、社会正義に反しない状況を作ることができれば、離婚が認められることもあります。
有責配偶者からの離婚請求を認めると、一般的に相手方配偶者が精神的・社会的・経済的に苛酷な状態におかれる可能性が高くなります。
夫に不倫をされたうえに離婚までされたのでは、何の非もない妻が多大な精神的ダメージを受けるのは当然です。
また、子育てなどで専業主婦をしていた妻の場合、離婚後に働こうと思っても就ける職業は限られてしまうのが通常なので、社会的に苦しい立場におかれてしまいます。
十分な収入を得られる仕事にすぐにつくことは難しい場合が多いので、経済的にも過酷な状態になるでしょう。
このように、相手方配偶者を過酷な状態においてまで有責配偶者からの離婚請求を認めることは、社会正義に反するため許されません。
そこで、有責配偶者からの離婚請求が認められるためには、慰謝料や財産分与、養育費の支払いなどで十分に相手方配偶者に配慮することが必要です。
お金による解決法が中心となりますが、相手方配偶者を過酷な状態におかないことが重要なのです。
以上の3つの条件を満たす場合は、裁判で離婚することも可能です。
しかし、10年以上の別居期間が必要といわれても待っていられないということもあるでしょう。
仮に条件を満たす場合でも、裁判に要する期間も待てない、不倫相手と再婚するためにすぐ離婚したいという方もいらっしゃると思います。
そんなときは、協議離婚を成立させてしまうのが得策です。
ただし、有責配偶者から離婚を切りだして協議離婚を成立させるには、代償が必要です。
妻子を路頭に迷わせず、相手方配偶者に納得してもらえるような離婚条件を用意することが重要なのです。
有責配偶者から提示する離婚条件を決める際は、以下の点を考慮しましょう。
不貞行為は相手方配偶者に対する不法行為なので、慰謝料を支払う義務があります(民法第709条、第710条)。
不貞行為が原因で離婚する場合の慰謝料は、100万円~300万円程度が相場です。
ただし、これは不貞行為によって相手方配偶者に与えた精神的損害を償うための金額です。
不貞行為をした側から離婚請求する場合は、妻子の生活保障なども加味して慰謝料を増額するのが一般的です。
高額であればあるほど協議離婚が成立しやすくなりますが、現実には無制限に慰謝料を支払うわけにもいきません。
自分と相手方配偶者の収入や資産を考慮しつつ、誠意を持って交渉することが重要です。
財産分与とは、夫婦が婚姻中に共同で築いた財産を分け合うことです。
基本的には、離婚原因に関係なく共有財産を折半します。
ただし、財産分与には夫婦共有財産の清算という性質の他にも、慰謝料的性質と相手方配偶者の離婚後の生活保障的性質もあります。
そのため、財産分与についても相手方配偶者に配慮して増額することで協議離婚の交渉を有利に進めることが可能になります。
ただし、慰謝料や子供の生活保障としての養育費を別途支払う場合は、財産分与として二重払いする必要はありません。
どの費目でいくら支払うのかを夫婦で十分に話し合う必要があります。
夫婦間に未成年の子供がいる場合は、離婚する際にその子供の親権者を夫婦のどちらかに決めなければなりません。
どちらが子供の親権を持つかについては、基本的には離婚原因に関係なく、子供の健全な成長にとってどちらが望ましいかで判断すべきものです。
ただ、相手方が親権を主張する場合は自分が譲歩することで、協議離婚が成立しやすくなるということはできます。
不倫した夫から離婚を切りだす場合は、妻に子供の親権を譲るのが一般的でしょう。
とはいえ、親権者を決める際は子供のことを第一に考えなければなりません。
相手方配偶者が明らかに健全な子育てに適していないような場合にまで親権を譲ることには、問題があります。
子供の親権を相手方配偶者に譲っても、子供との親子関係が切れることはありません。
親子には法律上の扶養義務があるため(民法第877条1項)、離婚後は養育費を支払う義務があります。
適切な養育費の金額は、夫婦双方の年収や子供の人数・年齢などによって決められます。
裁判所のホームページに掲載されている早見表を見れば、簡単に調べることができます。
ただし、その金額はあくまでも相場として参考にすべきものに過ぎません。
実際に養育費を取り決める際には、お互いの年収を考慮しつつも、子供の健全な成長に必要な金額を考えなければなりません。
ここでも、可能な限り相手方配偶者にとって有利な金額を提示することで、協議離婚を成立させやすくなります。
親権を手放した側の親は、離婚後に離れて暮らす子供と定期的に会って交流する権利があります。
概ね月に1回程度のペースで時間や場所を取り決めて面会交流を行うのが一般的ですが、会う頻度や時間、場所、方法などは自由に取り決めることができます。
そのため、親権者となった相手方配偶者が子供の面会交流を嫌う場合は、あえて面会交流求めないことで協議離婚が成立しやすくなる場合もあります。
ただし、面会交流権は親の権利でもありますが、子供の健全な成長にとっても大切なものです。
子供にとって、両親が離婚はしても双方からの愛情を受け続けることは重要なのです。
したがって、子供との面会交流を諦めれば離婚できると安易に考えることは慎まなければなりません。
相手方配偶者にとって有利な離婚条件を提示すれば、協議離婚が成立しやすくなることは間違いありません。
とはいえ、相手方の要求に一方的に従うわけにもいかないでしょう。
有責配偶者からの離婚請求とはいえ、離婚条件には一定の落としどころというものがあります。
しかし、当事者同士で話し合うだけでは適切な条件で協議離婚するのは難しいものです。
そんなときは、専門的な知識とスキルを持った弁護士に依頼するのが有効です。
裁判で離婚するにも専門的な知識とスキルが必要なので、弁護士によるサポートが必要になるでしょう。
ただし、弁護士に依頼したからといって不貞行為をした側からの離婚請求が簡単に認められるとは限りません。
ここでは、不貞行為した側が離婚請求を弁護士に依頼する際に注意すべきポイントをご説明します。
不貞行為をした側が慰謝料を支払う義務を負うのは、相手方配偶者に精神的苦痛を与えているためです。
しかし、相手方配偶者としても不貞行為の証拠を確保していなければ、慰謝料を請求することはできません。
証拠がない場合は、たとえ自分が不貞行為をしたのが事実であったとしても、有責配偶者からの離婚請求ということにはなりません。
性格の不一致など通常のケースと同じように離婚請求をすることができます。
この場合、協議離婚をする場合でも交渉次第では慰謝料などの増額はなしで離婚することも可能になります。
相手が不貞行為の証拠をつかんでいるかどうかを確認するのは難しいものですが、まずは、どのような根拠で相手がこちらの不貞行為を主張しているのかを聴き取りましょう。
そして、丁寧に話し合いをする中で、不貞行為の証拠の有無を探ってみるとよいでしょう。
不貞行為の証拠を相手につかまれている場合は、有責配偶者としての離婚請求を何とかして認めてもらう必要があります。
そのために、相手方配偶者が納得するような離婚条件を提示することが重要であることは先ほどもご説明しました。
相手方配偶者に納得してもらうためには、どうしても慰謝料や財産分与、養育費などの金額を増額させるといった金銭による対処法が中心となります。
「全財産を譲ってほしい」というような極端な要求には応じられないとしても、ある程度の増額は避けられません。
例えば、慰謝料として200万円程度が相場のケースでも、納得してもらうために300万円の支払いが必要になる場合は多いでしょう。
したがって、それなりの金額を支払う準備をしておかなければ協議離婚を成立させることはできません。
ただし、慰謝料などを支払うために借金をすることはおすすめできません。
借金をすると金利のために金銭的な負担がさらに重くなり、離婚後の自分の生活が破たんしてしまうおそれが高いからです。
高額の慰謝料を一括で支払えない場合は、交渉によって分割払いが認められることもあります。
その場合、確実に支払いを継続できる見込みがあることを証明することが大切です。
相手方配偶者が協議離婚に応じなかったり、離婚裁判で負けたりしても、諦める必要はありません。
別居が長く続けばやがて夫婦としての実態が失われ、婚姻関係が破たんすることになります。
しばらくの間別居を続けて、時期を見て改めて離婚の話し合いを持ちかけることもできます。
別居している間に婚姻費用を支払い、妻子の生活保障について誠意を見せておけば、離婚が認められる可能性も高まっていきます。
有責配偶者からの離婚請求は、そもそも簡単に認められるものではありません。
すぐには認められなくても、時間をかけて離婚に持っていくという考え方も重要になります。
不貞行為をした側からの離婚請求を認めてもらうためには、時間をかけるかお金をかけるかによって代償を支払うことがどうしても必要になります。
しかし、婚姻関係が破たんしたのに無理に夫婦であり続けることは、相手方配偶者にとっても望ましいことではないでしょう。
そのことを相手に理解してもらえれば、円滑に協議離婚が成立することもあります。
そのためには交渉が重要であり、弁護士によるサポートを受けることが得策であるといえるでしょう。